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【横浜を拓いた男たち】シリーズ第5回 生糸貿易で日本を先導―原三渓

生糸貿易で日本を先導―原三渓

松沢成文

 

 皆さんは、原三渓(富太郎)という人物の名前を耳にしたことがあるだろうか?横浜や神奈川にお住まいの方なら、「三溪園」という本牧にある日本庭園を通じて知っている方も多いかもしれない。原三渓は明治・大正期に横浜を拓いた偉大な経営者であり、文化人である。

 

 原富太郎、旧姓・青木富太郎は「明治」がやってくる半月前の慶応4(1868)年8月23日に、父・青木久衛の長男として、美濃国(現・岐阜県)安八郡神戸村に生まれる。富太郎は、学業も優秀で家業も手伝い、農作業や庭作り、家の改装なども厭わなかった。

 

 また、この頃から、富太郎は絵を描き始めている。子ども時代から、亡き祖父髙橋友吉(号は杏村)の絵画に親しみ、叔父である髙橋鎌吉(号は抗水)に手ほどきを受けるという恵まれた環境に育った。

 富太郎は,みるみる絵の腕を上げ、ほどなく彼の絵は立派に値が付くようになった。久衛は富太郎が画技や教養を磨きながら、当主の役割を果たすことを期待し、16才の富太郎に家督を譲る。

 

 ところが、仕事で名古屋に旅に出た富太郎は、大都会のエネルギーに触発される。その後、開校間もない「東京専門学校(現・早稲田大学)」で学ぶことを決意し、上京を果たす。明治18(1885)年4月のことだった。

進取の気風に富んだ教員に恵まれ、法律学に意欲的に取り組んだ。それと同時に、富太郎は「跡見学校」という女学校で、助教師の職を得ていた。

 

 ある日、富太郎は、新設の新橋駅頭で妻となる女性と運命的な出会いをする。15才の跡見学校の女学生であった原屋寿(屋寿子ともいう)と遇然出会う。

屋寿の祖父である原善三郎は、生糸の貿易で財を成した横浜の豪商だが、妻子に恵まれず、原家を継ぐのは孫の屋寿だけであり、その夫は有能な実業家でなければならないーー。しかし、二人の愛は、その難しい結婚を成就させる。

 

 富太郎の義祖父となった原善三郎は、慶応元(1865)年、横浜の日本人居住区の弁天通に生糸商の店舗を構えた。4年後には横浜の生糸輸出額の22%も扱うほどに大きな発展を遂げた。善三郎は「横浜為替会社」の頭取や、同業組合である「横浜生糸改会社」の社長に就任。さらに、福沢諭吉の提言により設立された「横浜商法会議所」初代頭取にも就任している。富太郎が婿養子に入ったころ、原善三郎はすでに横浜の顔役になっていたのである。

 

 富太郎は商売人としての経験はほとんどなく、まずは見習いの立場として一から学ばなければならなかった。明治32(1899)年、善三郎が71才の生涯を閉じると、富太郎はすぐさま店主となり経営の最前線に立つ。生糸売り込み商店と第二銀行の経営権、そして設備二百点を誇る渡良瀬製糸工場を継承。店名も「原合名会社」とし、生糸の直輸出のため輸出部を設ける。

富太郎は明治35(1893)年、三井家から富岡製糸場など4つの生糸場を買い受けている。こうして、富太郎は名実ともに生糸商人から、製糸業も営む経営者に脱皮していく。ロシアに続き、フランスのリヨンにも代理店を置き、フランスやイタリア、イギリスの業者とも直接交渉を行っている。

 第一次世界大戦による変動もあったが、若槻礼次郎大蔵大臣の支援もあり、冨太郎は「帝国蚕糸株式会社」社長に就任する。富太郎はさらに「横浜興信銀行」(後の横浜銀行)の設立など、銀行業においても大きな実績を残している。

 

 その後、冨太郎は、善三郎の残した本牧の三之谷に、理想の庭園「三溪園」を築く。この頃から原三渓を名乗る。驚くべきことに、三渓は明治39(1906)年、丹精した三溪園の外苑を無料で一般開放している。

 原三渓は実業家であるとともに、千利休と美意識を共にしていた大茶人でもあった。そして、古美術の収集家、日本画家のパトロンとしても知られている。

 

 忘れることができないのは、岡倉天心との出会いで、日本美術振興のための多大の尽力であろう。天心の門下生である横山大観や下村観山をはじめ、日本美術を担う多くの若手画家が三溪園に通い、三渓の支援を受けた。因みに生糸貿易を生業とした天心の父・岡倉覚右衛門と原善三郎は旧知の間柄だった。

 原三渓は、偉大な事業家であり、優れた美術家にして茶人であり、そして地域福祉向上のためにも尽力した社会貢献の人でもあった。経済と文化の両面で横浜を拓いた偉人である。

 

【出展:拙著「横浜を拓いた男たち」(有隣堂)】

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