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『STOP受動喫煙新聞』第43号(’23年7月発行)掲載 「たばこ税」と喫煙率

「たばこ税」と喫煙率

 

公益社団法人 受動喫煙撲滅機構 理事

前神奈川県知事・参議院議員

「国際基準のタバコ対策を推進する議員連盟」幹事長 兼 事務局長

松沢 成文

 

 

論理的には、喫煙率が大幅に下がれば、受動喫煙による被害が減ることにもつながっていくはずです。そこで今回は、喫煙率を確実に下げる方策について、考察します。

 

国の目標に達しない喫煙率

 

国は、国民の健康増進を図るため、2010年に19・5%であった成人喫煙率を、’22年まで12へ低下させる目標を設定しました(2012年「第2次健康日本21計画」)。しかし、直近のデータ(’19年)でこの数字は16・7%にとどまっています。これでは12%という目標達成は’22年どころか、今後も極めて難しい状況と言わざるを得ません。

 

小手先のキャンペーンでは不十分

 

この間、国は、健康増進法の改正や、毎年5月31日の「世界禁煙デー」に合わせた「禁煙週間」などの普及啓発活動、禁煙支援、禁煙相談などの対策を実施してきました。しかし、その程度では不十分なのです。喫煙率を下げるために最も確実な方法は、タバコ価格を大幅に値上げすることです。これによってタバコの消費は確実に抑制されます。

 

タバコ値上げと「たばこ税」の関係

 

タバコの値上げに関しては、「たばこ税」を徐々に上げることが長年続いていますが、そもそもタバコへの課税は、明治初期の1876年に始まりました。その後、日露戦争の戦費調達や旧国鉄の債務処理に使われ、タバコは、生活必需品とは異なる特殊性から、財源確保に貢献する財政物資として、課税されてきたのです。

 

加熱式タバコの不公平な税額

 

また、’17年に大手タバコメーカーが相次いで加熱式タバコの販売を開始しましたが、この加熱式タバコの税負担率は、軒並み紙巻きタバコよりかなり低い税率となっていました。そこで私が国会で指摘したところ、国はそれを受け、翌年から’22年までの5年間で加熱式タバコの税率を紙巻きタバコの水準に近づけました。そして並行して紙巻きタバコも税率を上げ、合計で1箱140円ほど価格が引き上げられることになりました。その結果、現在の紙巻タバコの価格は580円(JT・メビウス)程度となっています。

 

防衛費のためのタバコ増税

 

さらに政府は、今年度の税制改正大綱で、「防衛力を強化するため」に、2027年度において1兆円強の財源を確保するとしましたが、この1兆円強のうち、2千億円程の「たばこ税」が予定されているのです。そのため1箱あたり60円の増税となりますが、しかし、このような断続的かつ小幅の値上げでは、喫煙率の低下への影響は、一時的、限定的にすぎないのです。

 

タバコが安い国

 

世界のタバコ価格を比較すると、日本で600円のマールボロが、最も高いオーストラリアでは約3千円、イギリスでも1800円ほどとなっています(’21年時点)。国際的にも日本のタバコはまだまだ安いと言えます。そこで、喫煙率を下げるために、タバコの価格を欧米先進国並みに大幅に引き上げることが考えられます。

 

千円で消費は半減

 

以前から私も1箱1千円に値上げすべきと主張してきました。実際、価格が千円になると、喫煙人口が約14%減り、タバコ消費量が約半分になる一方、税収は6兆円余と、4兆円以上の増収になるとの試算もあります。

思いつきのようにその都度、取りやすい「たばこ税」を当てにするのではなく、今こそ、喫煙率を下げ、国民の健康と命を守るために、タバコ価格を大幅に上げるときです。

 

税の有効活用を

 

なお、日本の「たばこ税」は、消費税などと同様に何に使ってもよい「一般財源」として納められているので、結局、タバコの消費削減や受動喫煙防止の取り組みにはさして使われず、その使途は不透明で、特に今回のように防衛費にまで使われる、という問題があります。しかしとりあえずの値上げ策として増税を頼りにするのであれば、せめて一般財源ではなく、タバコと受動喫煙の撲滅のためだけに使途を限定した「目的税」という仕組みにするのが望ましいと、私は以前から主張しています(本連載36号参照)。

そして、急速な高齢化の進展により社会保障関係費が増加する中、タバコの税は防衛財源などではなく、健康政策を中心とした社会保障財源として、計画的かつ有効に活用すべきなのです。

(’23年6月9日記)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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