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受益に応じた負担を無視したふるさと納税制度
格差是正の効果なし

<『日本の論点2008』掲載>

税収格差は地方交付税で是正するのが本筋

二○○七年(平成一九年)六月、菅総務大臣(当時)は、個人住民税の一部を生まれ故郷などに納める「ふるさと納税制度」を本格的に検討するため、総務省内に「ふるさと納税制度研究会」を設置した。(*1)
また、これと相前後して、政府・与党内では、都市と地方間の税収格差(*2)が広がっているとして、都市に集中する法人税収を地方に配分すべきといった意見が頻繁に出されるようになる。
「ふるさと納税制度」は地方間の税収格差の是正手段、すなわち都市の税の一部を地方へ振り替える手段として注目されたことから、多くの地方団体の首長から賛否両論——主として都市の首長が反対、地方の首長が賛成——が出され、マスコミも都市対地方の構図ととらえ、論理というより情緒面からの報道が目立った。
そもそも、地方団体の税収の多寡は地域の経済力等に左右され、そこに差がある限り、税収格差は当然生ぜざるを得ない。そして、この税収格差は、基本的に都市で集められた税収を地方へ配分する財源調整機能を持つ地方交付税によって是正される仕組みになっており、こうした地方財政制度上の仕組みを抜きに、税収格差のみに着目した議論が全く意味を成さないことは自明の理である。
また、都市と地方の格差を論ずる場合には、都市に特有のさまざまな財政需要、例えば、都市に集中した住民の福祉や教育、道路や公園の整備等々が生じていることも考慮されなければならない。「ふるさと納税制度」をめぐる議論では、こうした点はほとんど無視され、税収の偏在のみが、「ふるさと」という語感の心地よさのみに頼ってことさら強調されている感がある。
税収格差は、例えば平成の時代を見ても、むしろ縮小してきているのであって、多くの地方団体の首長が、異口同音に厳しい財政運営を主張するのは、三位一体改革(*3)が国の財政再建に利用された結果、地方交付税がこの三年間で五・一兆円にも及ぶ大幅な削減をされたことに起因していることを、まず指摘しておきたい。

「ふるさと納税」は地方税の原則に反する

以下、「ふるさと納税制度」の重要な問題点について具体的に指摘したい。まず、税理論上の問題、受益と負担の問題である。
「ふるさと納税制度」は、住所地の地方団体に納めている個人住民税の一部を、住民が希望すれば、「ふるさと」とされる地方団体に振り向けることができる制度として提起されている。
しかしこのことは、受益と負担に着目した地方税の原則に照らすと、大きな問題がある。個々の税によって多少の差はあるが、地方税は、その課税根拠として、地方団体が提供する行政サービスに着目し、その対価として負担するという性格を持っている。「ふるさと納税制度」が導入されると、行政サービスを受けていない地方団体に税を納める一方で、住所地の地方団体に対しては、行政サービスを受けながらも、負担すべき税の一部しか納めないことになる。住所地の地方団体の税収が減れば、その団体は、行政サービスの水準を低下させるか、行政サービスの水準を維持するために他の財源を調達しなければならない。当然、増税もありうる。
こうした事態は、住民税の全額を住所地に納めている納税者にとっては明らかに不利益となる。そしてこうした不利益が、他人の意思によって一方的に生じてしまうということは、受益に応じた負担という地方税の理念(応益原則)の根本を揺るがす大問題である。なお、この点については、早稲田大学の野口悠紀雄教授が「Voice」二○○七年八月号において、「迷惑なサービスの『ただ乗り』(*4) と明快に指摘されているので、参照されたい。
実務上の観点から見ても問題は多い。現在、住民税の課税と徴収は、全国約一八○○あまりの市町村が行っている。「ふるさと納税制度」が導入されたなら、少なくともこの一八○○の団体間で、本来の住民税とふるさと納税分の住民税とを割り振る作業を行わなければならない。当然、全国共通の電算システムを構築して対応しなければならないが、その費用や事務量を考えると、「ふるさと」に貢献したいという崇高な精神のかなりの部分が、徴収のための経費として消えてしまう可能性が高く、きわめて非効率な制度となってしまう。
さらに重要な点は、「地方団体の課税権」の問題である。地方税は、地方税法という法律を準則法ないし枠法としつつ、地方団体の議会が定める条例に基づいて課税されている。この条例は、地方団体の区域内においてのみ効力を有するのであって、他の地方団体の住民や、物件、行為等には効力が及ばない。
換言すれば、地方税として課税するためには、その地方団体の区域内に住所や事業所など何らかの課税根拠が必要なのである。したがって、課税根拠が存在しない「ふるさと」の地方団体に住民税の一部を割り振る形で税制度を成立させることは、法律上困難であるとしか言いようがない。

地方団体への寄付金を所得控除の対象に

このように「住民税の一部をふるさとに納める方法」としての「ふるさと納税制度」については、実現が困難であることが理解されてきたようで、先般取りまとめられた「ふるさと納税研究会」の報告書では、寄付金を税額から控除する方式が望ましい(*5)とされた。しかし、住民税でこれを実施する場合には幾つかの問題がある。
仮に、「ふるさと」とされる地方団体への寄付金を全額住民税から控除すれば、「ふるさと納税制度」と同じ効果を生じさせることができる。しかし、この方法では、「ふるさと納税制度」と同様、寄付をする人は本来負担すべき住民税の一部しか負担しないことになり、結果的に受益と負担の関係が切断され、納税者間に不平等が生じてしまうのである。
加えて、この方法は、原則として寄付金の全額が税負担の減となる(すなわち自己負担を伴わない)ことから、社会貢献のために自ら犠牲を払うという「寄付」の精神からもかけ離れたものになってしまう。
神奈川が輩出した偉大な改革者・二宮尊徳は、その実践思想である「報徳仕法」の中で、「分度」「推讓」という教えを説いている。「分度」とは自分の身の丈に合った生活をすること、そして「推譲」とは、「分度」によって生じた余剰を、自分のためだけではなく広く社会に還元すべきという教えである。
ふるさと貢献の思いは、このような社会貢献の気持ちと同様、崇高なものであり、こうした志に対して私は心から敬意を表したいし、こうした気持ちを支援する制度を構築することは、私も大いに賛成である。こうした考え方に立って、私は、税収格差是正のための「ふるさと納税制度」ではなく、ふるさと貢献の思いを支援する制度として、地方団体への寄付に対し、自らの負担をともなう所得控除制度(所得税・住民税)の充実を図ることを提唱したい。
「ふるさと納税制度」は、税制度として問題であるばかりでなく、格差是正の効果もそもそも疑わしい。そうした意味で、総務省の研究会が「税を分割する方式はとり得ないと結論付けたことは評価したい。税収格差の是正は、地方団体間の税の割り振りではなく、国の責任において地方交付税の充実で対応すべきである。そして何よりも、「ふるさと納税制度」の議論により、都市と地方が対立し、地方分権改革のあるべき方向を見誤ることがあっては決してならないと考える。

*1 「ふるさと納税制度研究会」を設置した
管義偉前総務相は○七年五月、訪問先のパリで記者団に、地方自治体の首長から制度創設の要請を受けていると説明。「自分を育ててくれた故郷に少しでも恩返しをしたい思いの人もたくさんいる」と、都会生活者にも制度創設を求める声があることを強調した(共同通信○七年五月二日付)。 

*2 税収格差
人ロ一人当たりの地方税の税収格差は、全国平均を一○○とすると、上位は東京都一七八・八、愛知県一二四・五、大阪府一○九・五、神奈川県一○七・六、静岡県一○六・三。下位は、秋田県・高知県六六・三、青森県六五・四、宮崎県六四・九、長崎県六三・五、沖縄県五六・六。
*3 三位一体改革
○一年に小泉純一郎内閣が掲げた「聖域なき構造改革」の一つ。「官から民へ」「国から地方へ」という考えのもと、小泉政権の○四年から○六年度にかけて実施された。①国庫支金を減らす②税源を地方に移譲する③地方交付税を見直すーこの三つの改革を同時に推進することで、国と地方の財政再建、地方分権を進める狙いがあった。義務教育費国庫負担金など補助金の削減により、三兆円の税源が地方に移譲され、地方交付税は五兆一○○○億円が削減された。だが、地方交付税の削減によって自治体の財政は悪化したため、都市と地方の格差がさらに拡大したという批判の声も強い。 

*4 「迷惑なサービスの『ただ乗り』」
〈いまA市に住んでいるB氏が、故郷のC市に「ふるさと納税」するとしよう。これによってB氏がA市に納める住民税は減少し、他方でC市の住民税は増加する。「ふるさと納税」を是とする人は、この二つの効果のうち、C市の住民税が増加することのみを見ている。そして、「財政力の弱い地方自治体の支援になるから望ましい」としているのである。しかし、B氏がA市に納める住民税が減少したにもかかわらず、A市が提供するサービスをB氏は従前どおり享受しつづけることを忘れてはならない。これは、A市の提供するサービスにB氏が「ただ乗り」することを意味するのである〉(「Voice」○七年八月号)。 

*5 寄付金を税額から控除する方式が望ましい
総務省の「ふるさと納税研究会」(座長=島田晴雄・千葉商科大学長)は、○七年一○月、「ふるさと納税制度」に関する最終報告書を増田寛也総務相に提出した。同報告書には、個人住民税の寄付金控除制度を拡充し、五○○○円を超える寄付をした場合、超過分を所得控除の適用対象とすることなどが盛り込まれている。 

筆者が推薦する基本図書
●『三位一体改革と地方税財政 — 到達点と今後の課題」神野直彦(学陽書房)
●『新・地方分権の経済学』林宜嗣(日本評論社)

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