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【二宮尊徳の成功哲学】シリーズ第14回 金次郎像、ブラジルに渡る!

金次郎像、ブラジルに渡る!

松沢成文

 

 日本からのブラジル移民百周年を記念し、平成20年(2008)6月、私はブラジルを訪問する機会に恵まれた。神奈川県知事としては実に23年ぶりの訪問であった。現地では、神奈川文化援護協会(県人会)や日系移民関係団体との意見交換をはじめ、ブラジル国営石油公社や州政府を視察し、さらには経済セミナーを開催するなど、充実したスケジュールだった。なかでも日系人の皆さんとの交歓は感慨深いものがあった。

 

 ブラジル移民百年――今では、2世、3世はもとより、4世、5世の方も活躍されているそうだ。大いなる夢を抱いての移民だったが、当初聞いていた話とは随分開きがあり、苛酷な処遇に甘んじなければならない場面もあったという。また、地球の反対側での生活は、自然や社会環境も母国日本とは大きく異なり、忍従の生活を余儀なくされた。そうした日々の心の支えになったのは、ほかならぬ「二宮金次郎」の姿だったと、多くの方から聞かされたのが、私の心に深く残った。調べてみると移民の中にも報徳運動のリーダーがおり、多くの日系移民は尊徳思想や報徳仕法を耕地開拓の実践に活かして労働に励んだのである。

 

 帰国後の7月、サンパウロの県人会の方から、一通のメールが届いた。私のブラジル訪問への謝意とともに、次のような依頼があった。

「知事との懇談のなかで、二宮尊徳の功績の話に強い感銘を受けた。郷土神奈川が生んだ偉人であり、日本の精神文化の一つの象徴であり、日系移民の心の支えであった二宮金次郎の思想を、移民百周年を機会にブラジルの若い人達にも広めていきたい。ついては、ブラジルには二宮金次郎の像がない。ぜひ、神奈川県から贈っていただけないか」

 遥かブラジルの同胞に思いを馳せ、私はこの熱い願いをかなえてあげたいと考えた。実現するにはどうしたらよいか。まずは、「金次郎像」の確保であり、小田原の報徳博物館の草山昭館長(当時)に相談してみた。草山館長は即座に趣旨に賛同され、「ちょうどよい金次郎の像が報徳博物館にある。そういうことなら、ぜひブラジルに届けてほしい」――。大変ありがたいお話をいただいた。よし、これで何とかなると安堵したものであった。

 

 金次郎像のみを贈呈するのなら、後は輸送経費の問題だけである。財政事情は厳しいが、県費での確保策もあるだろう。しかし、私は考えた。郷土が生んだ偉人である二宮尊徳、私自身も二宮尊徳には思い入れが深い。この機会に、二宮尊徳の理解を拡大することに繋げられないか。

 そうした願いもあって、県民の皆さんに広く参加を募って進めるべきではないかと考え、ゆかりのある著名人に呼びかけ人になっていただき、「二宮金次郎像、ブラジルに渡るプロジェクト」を同年9月にスタートさせた。

 内容は、金次郎像のブラジル日系団体への寄贈や二宮尊徳関係図書・CDの寄贈、ブラジルでの「二宮尊徳セミナー」の開催であり、そして、それらに要する費用を全て県民の皆さんからの募金で賄おうというものであった。

 

 プロジェクトの趣旨は共感を呼び、マスコミにも大きく取り上げられた。県内のみならず北は北海道から南は九州まで、3千を超える個人・団体から、目標の3百万円の3倍の9百万円もの募金が寄せられた。このような盛り上がりの背景には、ブラジルの日系人へのねぎらいがあり、また、二宮尊徳の思想や生き方に今なお、日本人の心を打つものがあることを再認識せざるをえなかった。

 

 金次郎像の出発式は11月28日、小田原市栢山の尊徳記念館内の「金次郎生家」の前で、地元の加藤憲一小田原市長(当時)など多くの関係者の参加を得て行われた。私もプロジェクトの立案者としてお礼の挨拶を申し上げた。式典の最後に、地元の可愛らしい報徳幼稚園児が覚えたばかりの「唱歌・二宮金次郎」を元気に歌ってくれた光景が忘れられない。こうして、多くの方の見送りを受け、金次郎像は、12月上旬、横浜港からブラジルへと船出したのである。

 

 翌年2月、サンパウロでの「金次郎像除幕式」「尊徳セミナー」には、草山報徳博物館長のほかに、二宮尊徳の玄孫である二宮精三氏も参加された。念願の金次郎像の除幕を子孫が行ったということで、日系人の喜びも格別だったようだ。

 因みに、この金次郎像は当初、神奈川県人会館の内庭に仮設置されていたが、1年後には全国組織である「ブラジル日本文化福祉協会」(文協ビル)の敷地内に移設され、日本各地からのブラジル移民や日系人の目に広く触れることができるようになった。

 このプロジェクトをきっかけに、悠久のブラジルの大地に悠久の尊徳思想が根づき、金次郎像が架け橋となって日本とブラジルとの間で文化交流や相互理解が進む一助になれば、喜びこれに勝るものはない。

【出展:拙著『教養として知っておきたい二宮尊徳』(PHP新書)】

 

 

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