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【二宮尊徳の成功哲学】シリーズ第4回 世界の真珠王と称された御木本幸吉

世界の真珠王と称された御木本幸吉

松沢成文

 

 「ミキモトパール」の創始者として有名な御木本幸吉も、二宮尊徳の信奉者であったということをご存知だろうか。

 幕末の安政5年(1858)、御木本は志摩国鳥羽浦の大里町(現・三重県鳥羽市)で生まれた。「町人(商人)に学問はいらない」という当時の世相と、病弱な父のために家業を手伝わなければならなかった事情から、正規の教育はほとんど受けていない。

 14歳で家業のうどん屋を手伝いながら青物の行商を始める。大きな目標を掲げることで自分自身に課題を与え自らを鼓舞するところがあり、時として大法螺吹き(おおほらぐき)といわれた。

 

 20才のときに見聞を広めるため、東京見物に出掛け、ついでに日光へも立ち寄った。その際、尊徳の話を聞き大きな感銘を受け、以後『報徳記』(富田高慶著)や『二宮翁夜話』(福住正兄著)を愛読し、尊徳思想の熱烈な信者になっていく。また、翌年には大阪・神戸にも出かけているが、この旅行経験が御木本を海産物商人へと転身させるきっかけとなった。

 

 当時、世界の装飾品市場では、天然の真珠が高値で取引されており、志摩ばかりでなく全国のアコヤ貝は乱獲により絶滅の危機に瀕していた。そこで御木本は、真珠の養殖を思い立ち実験を重ねていく。また、海面を専有する養殖に反対する漁業者や漁業組合と厳しい交渉を重ねた。こうした幾多の困難を克服して半円真珠から真円真珠への技術開発に成功し、真珠養殖の産業化を実現するのである。この間の御木本の努力と忍耐力は、「積小為大」の実践という尊徳思想の賜であろう。

 

 真珠養殖の産業化を成し遂げた御木本は、真珠の生産にとどまらず、真珠を宝石市場の中心に位置づけようとあらゆる努力を惜しまなかった。御木本真珠店を東京銀座に創業し、その後、上海、ニューヨーク、ロンドン、パリ、シカゴに支店を開設し、世界を股に商売を展開する。フィラデルフィアの万国博覧会に自慢の真珠を出品して「世界の真珠王」と呼ばれ名を上げたのである。

 

 この頃、御木本は渋沢栄一の紹介で、ニューヨーク郊外のトーマス・エジソン邸を訪問。世界の発明王と真珠王の会談が実現したのである。エジソンは「これこそ真の真珠だ。私の研究室で出来なかったものが2つある。一つはダイアモンド、もう一つは真珠だ。あなたが動物学上からは不可能とされていた真珠を発見し完成したことは世界の驚異だ」と大賛辞を送る。苦学と勤勉によって成功した者同士、二人は馬が合ったのだろう。この対談がニューヨーク・タイムズに掲載され、ミキモトパールの名が飛躍的に知れ渡る契機となった。

 

 尊徳に深く傾倒していた御木本は、尊徳の生家が他人の手にわたり移築されていることを知るや、直ちにこれを買い戻し、もとの位置に建て直した。現在も小田原市栢山に、尊徳生家として保存されている。

 また、東海道線(現・御殿場線)松田駅に、この家の所在を記した標柱を立ててるなどして、人々の尊徳への関心が高まるよう努めた。今では生家の隣には小田原市の尊徳記念館も建てられ、多くの人々が訪れている。

 

 御木本はまた、尊徳の「推譲」の精神の体現ともいうべく、地域社会へも様々な貢献をしている。自らの資金をもって志摩の道路改修を行い、自らもその工事に従事した。現在でも伊勢の真珠島には「海の二宮尊徳たらん」と志した当時の心意気が、その入口に大きく書き記されている。

 

 昭和29年(1954)、御木本は老衰のため96才で死去した。看病をした女医は、「真珠王といわれる方が、あまりにも質素な暮らし、食事をしておられたことに驚いた」と話している。「世界中の女性を真珠で飾りたい」と言った御木本だが、自らは飾らない人生だった。

 御木本を真珠養殖において支えてきた妻うめは、明治29年(1896)に5人の子供を残して32才の若さで早世したが、御木本はうめに先立たれてからは、その労苦に報いるために生涯独身と通したという。

 

 「真珠王」として世界の宝石市場で一世を風靡した御木本幸吉も、尊徳思想に心酔し、自らの生涯を切り開いた偉人であった。

 

【出展:拙著『教養として知っておきたい二宮尊徳』(PHP新書)】

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