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【二宮尊徳の成功哲学】シリーズ第2回 日本資本主義の父・渋沢栄一

日本資本主義の父・渋沢栄一

松沢成文

 

 昨年放映されたNHK大河ドラマ「青天を衝け」で、渋沢栄一が主人公として描かれ、正に時の人として脚光を浴びた。また、渋沢栄一が福沢諭吉に代わる新1万円札の肖像になることが決まっており、再来年2024年に使用開始となる予定だ。二宮尊徳の思想を受け継いだ財界人の第一人者は、何といってもこの渋沢栄一であろう。

 

 渋沢は天保11(1840)年に武蔵国血洗島村(現・埼玉県深谷市)で生まれ、5歳の頃から父に読書を教わり、7歳のときには四書五経を学ぶなど勉学に優れた少年だった。若い頃には尊王攘夷運動に走ったこともある。

 その後、京都に出て一橋慶喜に仕える機会を得て、慶喜が将軍に就くと幕臣となる。そこでパリ万国博覧会に随員として訪問する幸運に恵まれ、フランスのみならずヨーロッパ各国を視察した。そのときにヨーロッパの資本主義社会の活力に圧倒される。この経験が渋沢の実業家としての活動の源となった。

 

 帰国後、渋沢は、大隈重信に説得され大蔵省へ入省し、井上馨の部下として財政改革を推進していた。そんなある日突然、西郷隆盛の訪問を受け、こんな陳情を受けた。

「大蔵省では相馬藩の興国安民法(尊徳の報徳仕法)を廃止しようという意見であるそうだが、興国安民法は二宮尊徳以来の藩是で、至極適切な制度であると思う。この良法が廃藩置県の実施によって廃絶せしめられるのは惜しいから、貴公の計らいで何とか存続できるよう取り計らってもらえないだろうか」

 

 実を言うと、この依頼は相馬仕法の中心人物であり尊徳の高弟であった富田高慶が、報徳仕法すなわち興国安民法存続のために、参議の実力者である西郷に泣きついたのが始まりである。

 これに対して渋沢は、報徳仕法については前々から興味をもって調べていたので、こう答えた。

「二宮先生の遣された興国安民法は、要するに、入るを計って出るを制すの道にかなった、まことに結構な制度であります。したがってこの制度を引き続き実行すれば、仰せのとおり、相馬藩は今後ともますます繁栄するでしょう。しかし、今日の時勢は、相馬一藩における興国安民法の存続を顧慮するよりも、さらに一歩進めて国家のために興国安民法を講ずるのが一層急務であると信じます。われわれ大蔵当局は、実にこの興国安民法を日本中で実施したいと切望し、日夜苦心努力している次第であります」

 この返答から察すると、渋沢は若い頃から報徳仕法を高く評価し、できれば日本中に広めたいと考えていたことは間違いない。しかし残念ながら西郷はその後に下野し失脚してしまい、報徳仕法が明治政府の政策として実行されることはなかった。

 

 さて、その後も渋沢は大蔵官僚として辣腕をふるい、度量衡制定や国立銀行条例制定などに携わる。しかし、予算編成をめぐって大久保利通や大隈重信と対立し、明治6(1872)年に井上馨とともに退官したのである。

 その後、民間人となった渋沢は、資本主義の形成と発展に絶大なる貢献をしていく。日本銀行創立の中心人物として大活躍したのは有名な話だ。さらには実業家として、第一国立銀行、東京海上火災保険、王子製紙、東京ガス、キリンビールをはじめ、生涯に約500社の民間会社の設立に関与していく。尊徳が600以上の農村はじめ武家や藩の復興に関わったように…。

 また教育の面でも、東京専門学校(現・早稲田大学)や慶應義塾、日本女子大、商法講習所(現・一橋大学)など、多くの学校設立において、主に資金面で協力していく。これはまさしく報徳仕法の推譲の実践である。

 

 渋沢の生涯を貫いていたのは「論語」の精神と経済活動の融合である。いわゆる「論語算盤説」である。

「商業において絶対に忘れてはならないことは『公益』と『私益』のあり方についてである。ややもすれば世界では、商業は私益のためという解釈が一般的

とされているようだが、これは間違いである。商業における公益と私益は一つである。公益はすなわち私益、私益はすなわち公益、私益よく公益を生ず。公益となるほどの私益でなければ、真の私益とは言えぬ」

 これが「論語算盤説」のいわんとするところである。一方、尊徳は「経済なき道徳は戯言であり、道徳なき経済は罪悪である」と訴えている。商業を経済と言い替えれば、尊徳の「道徳経済一元論」と相通じるものがある。

 このように、渋沢栄一は明治の近代国家建設の時代にあって、道徳と経済の調和と融合が大切であると論じ、二宮尊徳の思想を後世の経済・産業人に広く伝えた一人であった。

【出展:拙著「教養として知っておきたい二宮尊徳」(PHP新書)】

 

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