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「子ども手当」は地方自治の仇

<『文藝春秋』2010年6月号掲載>

いよいよこの六月から、鳩山政権の目玉政策である「子ども手当」の支給が開始される。現在、支給窓口となる全国の市町村は、急遽作られたこの新制度の対応に忙殺されている。
神奈川県内のある市町村の首長によると、衆院選や参院選などの国政選挙の事務作業よりも大変だという。自公政権時代に支給されていた「児童手当」とは支給金額も支給年齢層も所得制限の有無も違う。コンピュータのシステムを一から変えなければならない大きな制度変更であり、来年度からはまた仕組みが変わると民主党が言っているので、二年続けてのシステム変更は自治体にとって事務的に大きな負担になる。
もちろん、昨夏の総選挙で子ども手当をマニェストとして掲げた民主党は、圧倒的な国民の信任を得たのだから、その政策を実行すること自体は筋が通っている。だが、当たり前のことだが、新規の政策を行うためにはその裏打ちとなる財源を確保しなければならない。民主党はマニフェストで「ムダづかいの根絶」「埋蔵金の活用」「租税特別措置などの見直し」で政策を実行し、子ども手当については国が国税である所得税の扶養控除と配偶者控除を見直して財源を確保すると国民に約束していた。
ところがその約束は見事に破られてしまった。結局は財源を確保できずに、地方に負担を押し付けてきたのである。
昨年九月の政権発足当初、私は総務省の大臣室で就任したばかりの原口一博大臣と面会した。 原口大臣は松下政経塾で私の一期後輩にあたり、九九年に私が民主党代表選を菅直人さん(現副総理兼財務大臣)と争ったときは、事務局役を務めてくれた間柄だ。私が率直に「本当に国の全額負担で、子ども手当を実現できるのか」と確認すると、原口さんは「地方に負担は押し付けない」と約束してくれた。
それでも心配だった私は、「地方に負担を求めるべきではない」と十月に改めて表明し、それを受ける形で鳩山総理も全額国費負担を明言していた。
私には、○六年の小泉政権における「三位一体改革」での苦い記憶があった。それまで児童手当の負担割合は、事業主負担分を除くと国が三分の二、都道府県と市町村が各六分の一だったのが、このときの〝改革〟で三者の負担割合が各三分の一になったのだ。私は神奈川県知事に就任して四年目だったが、表面上は地方分権を進めると言いながら結局地方に負担を押し付ける国のやり方をその時目の当たりにした。
まさか、地域主権を掲げる民主党が自民党と同じことをするはずがないと思いながらも、一抹の不安を抱えていたのだ。
私の心配は現実のものとなった。

当の子どもに莫大な借金が

昨年十一月に鳴り物入りで行なわれた事業仕分けでは、当初の削減目標額は三兆円だったが、実際は四分の一にも満たない約六千九百億円しかムダを減らすことができなかった。
子ども手当以外にも高校授業料無償化、農家への戸別補償、医療費の増額など、民主党がマニフェストで約束した政策を実行するためには、絶対的に財源が足りないことが明白になった。
そして、昨年十二月、鳩山内閣は子ども手当の財源を国が全額負担するという方針をいとも簡単に覆したのだ。菅国家戦略担当相(当時)、原口総務相、藤井裕久財務相(当時)や長妻昭厚労相の四大臣が協議し、従来の児童手当の仕組みを維持して子ども手当の財源の一部に充てることを合意した。初年度の子ども手当給付に必要な約二・三兆円のうち、国庫負担は約一・七兆円に抑え、残り六千億円を地方に押し付けたのである。
これまでの児童手当は、小学校卒業までの児童に月五千円または一万円を支給してきた。所得制限もあり、必要な予算は国と地方を合わせて年間約一兆円だった。神奈川県の場合、昨年度の当初予算での負担額は約百四十三億円だった。民主党のマニフェストでは全額国庫負担であり、「百四十三億円が浮けば予算編成が少しは楽になる」と思った矢先の方針転換である。それぞれの地方自治体が行財政改革を進め、給与までカットして何とか財源不足を埋めようと必死で努力している中で、有無を言わせずに負担を押し付けてきたのだ。
私は昨年十二月、「『子ども手当』の地方負担に関する要請」なる文書を、橋下徹大阪府知事や東国原英夫宮崎県知事ら計七人の知事の連名で財務省と厚生労働省に提出したが、我々の要請が顧みられることはなかった。
民主党政権のあまりの豹変ぶりに、私は一時は「国が考え方を改めないなら、ボイコットも辞さない」と表明した。しかし、「神奈川県だけもらえないのか」という声も寄せられ、地域差別を生じさせてしまうことなど諸事情を勘案し、最終的には矛を収めたのである。
私は地方負担の問題だけで子ども手当を槍玉に挙げているのではない。そもそも、財源の裏付けなき現金給付を行う政策は、中長期的に国家を危うくすると考えているからだ。
理由は大きく二つある。第一は、日本が直面する財政破綻の危機だ。
周知の通り、三月に成立した今年度予算は過去最大の約九十二兆円。税収は約三十七兆円で、新規国債発行額が過去最悪の約四十四兆円に上る。当初予算の段階で、借金が税収を七兆円も上回る前代未聞の予算編成だった。来年度以降も税収増の見込みは薄い中、子ども手当は実施初年度の月額一万三千円から二万六千円へと倍増するというのだから、国家財政をますます破綻に近づけるのは必至である。今年度、子ども手当に必要な財源は約二・三兆円、来年度以降は約五・三兆円となる。ちなみに、国の防衛費は約四・七兆円である。国家を護る予算よりも大きな税金をバラまき、それは巡り巡って将来世代が負担する国の借金となる。「子どものため」といいながら、当の子どもに莫大な借金を残す矛盾した政策といっていい。
二番目の理由は、ばらまき政策は国民の依存心を強めるからだ。民主党は当初か社会全体で子育てをしていくために子ども手当を創設するのだと主張していたが、途中から景気対策の面もあると言い始めた。「不況だから」といって、現金をばらまく政策は、自立して生活しよう、自助努力で経済を成長させていこうという国民の意識を着実に蝕んでいく。
政府の役割とは、端的に言えば、税金を国民から集め、それを効果的、効率的な公共サービスとして国民に提供することである。例えば、学校を建てる、先生を雇う、福祉施設を作る、道路を作る。お金を欲しがっているところや選挙で票になりそうなところへ、現金を右から左へばらまくのは、政府の仕事ではない。税金を集めてそれを現金のままで配り直すのであれば、そもそもの税金を安くすればいいだけである。例えば、扶養控除や配偶者控除などを活用して減税すればよい。子ども手当のような理念なきばらまき政策は、 自公政権でも昨年実施されている。麻生政権下で総額二兆円の予算を投じて実施された定額給付金である。その経済波及効果は、内閣府によると、名目GDP(国内総生産)の○・一三パーセントに過ぎず、極めて限定的だった。
「一身独立して一国独立す」
福沢諭吉は、明治の日本が独立国家として欧米列強に勝ち抜いていくには、一番大事なものは独立自尊の精神だと言った。
定額給付金は二万円。子ども手当は月に二万六千円。不況を言い訳にばらまきを繰り返していけば、「今度は幾らくれるのか」と、国民は依存心を強めるばかりになってしまうだろう。

党利党略がすべてに優先

さらに言えば、子ども手当の制度設計は不備だらけである。
第一は、外国人への支給の問題である。子ども手当は十五歳までの子どもを持つ親に対して現金を支給する制度であり、親が日本に住んでいれば、国籍にかかわらず、子ども手当を受給できる。子どもが外国に住んでいてもかまわない。極端に言えば、受給を目当てに日本に入国し、自国に子どもが十人いるといえば、理論的には十人分の子ども手当の受給が可能になるのだ。逆に、日本で生まれ育った子どもでも、親が海外に赴任していたら受給することができない。
民主党は政策調査会を廃止し、政策立案機能を政府に一元化した。そのために、法案の詳細な制度設計についての議論を党内で尽くしておらず、国会で野党から追及されて初めて問題点に気づくような有様だ。挙句の果てに、そうした外国人の親が、本当に自国に子どもを持っているかどうかを確認する煩雑な作業は、窓口である各市町村に押し付けられることになる。
またへ民主党はマニフェストで「経済的な理由で十分な教育が受けられない」子どものための政策だと言っていたにもかかわらず、なんらかの事情で両親がおらず、乳児院や児童養護施設などで暮らす子どもたちに子ども手当は支給されない。一方で、所得制限をもうけないので、親がどんなに高額の所得があっても一律に支給される。これでは、本末転倒ではないか。
また、子ども手当があくまでも親に支給されるものであることから、使途はまったく問われない。親が生活費の足しにするならまだしも、遊興費に使われてしまう恐れもある。昨年の定額給付金と同じく大半が貯蓄に回ってしまう可能性も大きい。例えば、子どものための学費や保育サービスなどに使えるバウチャー(引換券〉制度にしていれば、遊興費や貯蓄に回ることもない。そういった議論をなぜ導入にあたってしなかったのか。
これら制度設計の不備を生じさせた最大の原因は、六月に支給を開始する一部という絶対的な目標だった。その理由はただ一つ。 七月の参院選前に現金を給付したかったからだ。
しかしよく考えて欲しい。支給が数ヵ月遅れようとも、様々な問題点を解決するために十分に議論して制度設計したほうが、中長期的には国民のためになるのは明白だ。昨年の衆院選に続いて参院選でも勝利して政権基盤を磐石なものにしたいという民主党政権の党利党略が、すべてに優先した結果の拙速なスタートと断じざるを得ない。
また過度の政治主導も影を落としている。細かな制度設計では、ノウハウが蓄積された官僚の知恵を生かすべきなのに、これを遠ざけてしまった。
政府は、児童手当の仕組みを残した地方負担は今年度だけの変則的なもので、来年度以降は改めて検討すると言っているが、その言葉も怪しい。
実は、前述した四大臣が合意した「平成二十二年度予算における子ども手当等の取扱いについて」と題された文書には、来年度以降の制度設計についてこう書いている。
「子ども手当については、国負担を基本として施行するが、所得税・住民税の扶養控除の廃止及び特定扶養控除の縮減に伴う地方財政の増収分については、最終的には子ども手当の財源として活用することが、国民に負担増をお願いする趣旨に合致する。また、児童手当の地方負担分についても、国、地方の負担調整を図る必要がある」
民主党は平成二十四年度から、年少扶養親族に対する住民税の扶養控除を廃止する方針を決めているが、地方自治体に入ってくる税金はその分だけ増える。その分を子ども手当に使うと言っているのだ。加えて、児童手当の地方負担分もあいまいなままだ。
この合意がなされた政府予算決定時は、時間の余裕もなく、全国の自治体の足並みが揃わなかった。だが、来年度予算編成時までに同じように地方への負担押し付けをゴリ押ししようとするならば、今度は全国すべての地方自治体が連携してそれを阻止しなければならない。
その一つが、子ども手当の正当性を法律面で問うことだ。今年二月に神奈川県は「国の政策と自治行財政権に係る検討会議」を設置し、子ども手当への一方的な地方負担の導入は重大な憲法上の疑義があるのではないかという点について議論している。政府が各自治体の了解なく、事実上、児童手当の財源を子ども手当に振り替えたり、地方の自主財源である住民税の一部を国の施策のために勝手に召し上げることは、憲法九十二条の「地方自治の本
旨」に反するのではないか。さらに、憲法九十四条も含めて解釈すれば、憲法により授権されている自治財政権を侵害するのではないかと考えている。

マニフェストを大胆に見直せ

私は、九三年に羽田孜党首、小沢一郎代表幹事が率いる新生党から出馬し、衆議院議員となった。その後、新進党などを経て、九八年の民主党結党に参加した。○三年に離党して神奈川 県知事選に立候補するまで、鳩山総理をはじめ、現在の民主党政権の閣僚たちとともに活動してきた。当時の民主党は、 若手が党幹部と自由に議論を戦わすなど、風通しのいい政党だった。物言えば唇寒しとなった今の民主党とはまったく違った政党だった。
一方で、党を一つの方向に束ね、選挙で自民党に勝つことができる集団にしていく強力なリーダーシップを持った人がいなかった。私の知事転出から半年後に、自由党と合併し、小沢一郎という強烈な存在が加わった。
この存在が今の民主党の最大のパラドックスとなっている。小沢さんに選挙や党務の権限を集中させ、資金の差配や票固め、団体対策などすべてを任せたことで、昨夏の総選挙で大勝できたことは確かだろう。だが今度は小沢さんの存在によって、かつての民主党らしさが失われている。
本来なら鳩山総理がリーダーシップを発揮すべきなのだが、残念ながら、総理はリーダーシップに欠けていると言わざるを得ない。子ども手当の問題だけでなく、普天間基地の移設問題にしても郵政改革や高速道路の料金問題にしても迷走を繰り返すばかりだ。
郵政改革では、郵便貯金の預け入れ限度額が二千万円に引き上げられ、簡易保険の保障限度額が二千五百万円に引き上げられようとしている。
九九年に超党派で郵政民営化研究会を作ったときは、小泉純一郎元首相が会長、私が事務局長に就任した。メンバーには前原誠司さん(現国交相)もいた。そのとき我々は、財政投融資解体、郵貯の地域分割を主張していた。岡田克也外相も○五年の民主党代表時に、郵貯の預け入れ限度額を五百万円まで引き下げると言っていた。原口さんも同じ考えだったはずなのに、今は亀井静香郵政改革担当大臣の言いなりになっているように見える。「官から
民」の改革はどこに行ってしまったのだろうか。
鳩山総理は、「地域主権」が「一丁目一番地」の政策だと明言してきた。地方に権限を与えることが最重要だと本当に考えているのならば、子ども手当での地方負担の押し付けなどの地方軽視の政策は生まれないはずだ。
民主党は地方分権について「ひも付き補助金から交付金へ」というスローガンを掲げている。つまり、使途の制限をなくし、地方が自由に使えるお金を増やそうというのが民主党の主張だった。だが、実際には、交付金を使う,施策についての計画書の提出が求められたり、様々な条件がつけられ、自由に使えなくなっている。本当に地方分権を推進したいのならば、税源を地方に移譲すべきだ。
しかし民主党はそれだけは決して口にしない。税源を渡せば、霞が関の解体に直結するからだ。口では「官僚主導を排する」と勇ましいが、民主党は明らかに「民から官へ」と向かい、大きな政府を志向している。
もちろん私もかつての同志への期待を捨てたわけではない。政権交代からまだ八ヵ月で、経験不足から混乱を来たしている面もある。政権を獲って初めてわかったことも多いだろう。
いまからでもまだ間にあう。現状のマニフェストは財源措置も明確ではなく、政策の整合性も全くとれていない。国民に真摯な説明をした上で、子ども手当を含めたマニフェストの大胆な見直しを行うべきだ。選挙目当てではない、本当のマニフェストを作り直して参院選に臨めば、民主党への国民の信頼を取り戻すことは可能である。

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