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なぜ私は「公共施設全面禁煙条例」をすすめるのか

<『正論』2008年10月号掲載>

公共の室内空間を条例で原則禁煙化することを目指す神奈川県の「公共的施設における禁煙条例(仮称)」が現在、制定に向けて準備が進められている。規制対象を民間施設にまで広げるという全国に例のない試みは、新聞でも大々的に報じられ話題を集めた。一方で、こうした動きに対しては批判も根強い。喫煙自体が個人の嗜みという側面が強いことに加えて「他人への迷惑」「他人への危害」「空気の汚れ」「健康増進」といった大義名分を盾にする、いわば空気のこわばりに対する違和感を多くの人が感じていることも背景にあるだろう。
インタビューで松沢成文知事は条例の目的について受動喫煙対策の一環であり、社会全体の新たなルールを確立することを目指したものであると説明した。さらに自らがマニフェストに掲げた公約でもあり、今後も民主主義の手続きに則って条例制定を推進する考えを強調した。
一方で「禁煙ファッショ」「独裁的」「喫煙者いじめ」といった疑問や批判に対して松沢氏は強い不快感を表明するとともに批判的な言論の多くが、誤解に基づいているとも述べた。ただ、一方で松沢氏は、民間施設への規制導入について受動喫煙対策の状況や業種、業態に応じて規制を分けたり、段階的な導入なども示唆し、原則を堅持しつつも「民間施設については一律全面禁煙にするのは難しい」とも語るなど、民間への慎重な配慮をにじませている。

禁煙化という「新たな分煙ルール」

—公共的施設の禁煙化に踏み切る条例を神奈川県では制定を目指しています。検討委員会の検討を経て、九月議会では条例の骨子案が議論されると聞きました。なぜ、条例制定を目指すのか。発案段階から経過をお聞かせください 
「『公共的施設における禁煙条例』という名称は仮称に過ぎません。私たちが目指すのは喫煙者の煙が吸わない人に及ぶ受動喫煙を防止することに尽きます。 
私は海外によく出張しますが、イギリス、フランスも米国の大半の州も室内の公共的空間はほとんどが禁煙です。アジアでも香港、シンガポール、タイは法律で公共的施設を禁煙にしている。吸わないことが前提で吸いたいなら外に行くか、プライベートスペースに限られる、そうしたルールが確立されているのです。 
しかし、日本ではたばこを吸う人の煙によって吸わない人が健康被害を受けることが多い。対策が遅れているのです。 
受動喫煙が身体に悪いことは様々な研究で科学的に実証されています。しかし、私は『たばこを吸うな』『吸ってはいけない』と言っているのではありません。公共的な室内空間では受動喫煙の可能性があるので、たばこを遠慮してもらうための社会全体の新たな分煙ルールを作ろうというのが、この条例の発想です」

—禁煙ではなく分煙? 
「ええ。社会全体の分煙ルールを作るものです。つまり不特定多数の人が出入りする公共的な室内空間では受動喫煙が起きてしまうので、吸わない人が健康を害する恐れがある。これを防止するためのルールを作ろうということです」

—日本は遅れていると… 
「健康増進法はできましたが、受動喫煙対策については『努めなければならない』という努力規定にとどまっており、「(受動喫煙対策を)取らなければならない」という義務規定ではない。立法化の過程で見送られました。甘いのです。地方分権の時代でもあります。国がやるべき受動喫煙対策について、新たなルールづくりに神奈川から挑戦して、それを全国に広げていく。そして重い腰の国を動かしていきたい。そう願っています」

喫煙対策を進める義務が法的にある

—しかし、国が努力規定にとどめているのに、条例で禁止することは法的に問題はないのでしょうか 
「まず大前提として指摘したいのは『たばこ規制枠組み条約』という日本が批准している条約があるということです。この条約はたばこ規制を様々定めています 
が、そのガイドラインでは『屋内の公共の場では分煙でなく、受動喫煙防止のために禁煙措置を取る』よう求めています。条約は法律より上位にある。条約を批准した以上、条約の趣旨に合わせた国内法の整備が求められているのです」

—法的根拠はあると… 
「国際法ですから、条約を批准した以上、日本は守るべき義務を負い、果たさなければならない責任がある。 
私たちはこれまで何度も国に受動喫煙対策を進めるよう要望を出してきましたが、国は一向に動かないのです。 
なぜか。それは、霞が関の縦割り行政の弊害があるためです。厚労省は国民の.健康を守るという観点から受動喫煙対策を進めたいと考えています。しかし、一方で財務省はたばこ税を抱えている。たばこを規制することで税収が落ち込むのは避けたいというのが本音ですから、たばこ対策に関しては厚労省と財務省が対立する構図があるのです。また、専売公社から民営化されたJT(日本たばこ)ですが、筆頭株主は今でも財務大臣です。大株主としては、JTの業績が悪化し株価が下がるのは避けたいでしょう。さらに、たばこ事業者を育成、発展させることを目的とした『たばこ事業法』の存在もあります。こうした状況の中で、財務省はたばこ規制を真剣に進めていく方向に立っていないのです。条約を批准し、守るべき義務はあっても、国内で受動喫煙対策が進まないのです」

—しかし、いきなり禁煙条例を耳にして唐突な印象を抱く人はいるのでは。神奈川県の施策の流れに一貫性はあるのでしょうか 
「神奈川県では県民の三人に一人はがんで亡くなっていてがん対策は喫緊の課題です。予防や早期発見、さらに治療やターミナルケアとがん対策には様々な段階があるのですが穴このうち予防対策では生活習慣を改め、酒や食事を見直し、運動が欠かせない。そしてたばこ対策です。受動喫煙対策を進めることは重要な課題なのです。 
私は、知事一期目からがん対策には真剣に取り組んできました。そして、公共的施設での禁煙条例制定を二期目の公約の第一番目に掲げ、それで選挙を戦い勝利しました。マニフェストですから、有権者との約束です。これを実現させなければ私は有権者を裏切ったことになります。私が選挙後に勝手に発案し、進めているのではありません。既に県民の信任を受けた政策なのです」

私は独裁者ではない!

—条例について職員から疑問はなかったのですか 
「それはありませんでした。というのも、すでに県庁では原則庁舎内禁煙の措置がとられていて、たばこを吸いたい職員は外の喫煙所か屋上にいくようになっています。無論、職員のなかにも、たばこが好きな方はいるでしょう。しかし、庁舎内ではルールが確立されていますので、批判は聞こえてきませんね」

—しかし、条例についての報道がなされてからは様々な批判はあるみたいですね。ナチスが健康増進を理由に、たばこ規制を盛んにやったことは『健康帝国ナチス」(草思社)に詳しいです。愛煙家だけでなく、たばこ対策や禁煙運動に対して違和感を感じる人の間では読まれている。知事はこの本は読まれましたか 
「是非、皆さんに理解していただきたいのは、私はたばこが健康に悪いとは考えてますが、独裁者のように、たばこをやめるとか神奈川県から喫煙者を追い出そうと言っているわけではないんです。自主的な取り組みに任せているだけで受動喫煙対策が進むのか。受動喫煙から県民の健康を守るきちんとした体制は取れるのか。それが私には大いに疑問であるから、条例で新しいルールを作ろうと、有権者の判断を仰ぎ、信任をいただいたのです。県としてはこの問題で一年間議論してきました。タウンミーティングも県内各地でやり、施設関係者にもヒアリングを重ねています。パブリックコメントは今後もやりますし、県議会とも議論を行っています。こうした民主主義の手続きを踏んで進めているのに、ファシズムなどという批判には本当に困ってしまう。 
こうした批判が生まれた一つの要因はメディアが『禁煙条例」という報道をし、あたかも神奈川全体を禁煙にするかのようなイメージが広がったためです。 
『知事の勝手でそんなことできるのか」といった批判も耳にします。私は吸う場所を考えましょうと言っているだけで、そういう批判をする方々にもきちんと話をすれば『なんだそういうことなんですか』と誤解は解けますが…」

不可解な私への批判」に答える

—批判にも様々なものがありますが、そもそも個人の嗜好に属する。そうした領域に行政が口出しすることへの違和感があるでしょう。また人間が生きていく以上、他人からの迷惑はどこまでやっても完全に断ち切ることができず、どこかで甘受せざるを得ない。不快感や迷惑を盾に「受動喫煙=危害」と展開される論理に空気の窮屈さを感じる人もいます。また、たばこが問題なら酒による害悪、迷惑も問題なのに、なぜたばこだけを問題にするのかと違和感を持つ方もいます 
「まず『なぜ、たばこだけ?」という批判ですが、酒も飲むことは法律で認められてますが、飲んだら絶対運転してはいけないことになっている。これも酒を野放図に認めているわけではないのですから規制でしょう。確かに酔っぱらいの喧嘩や他人への被害も多少ありますが、酒とたばこでは決定的に異なっていることがあります。お酒の場合は飲むことによって周囲に危害を加えることはありませんが、たばこは周囲に危害を及ぼすので、全然違うと思いますよ。 
空気を綺麗にする、県民の健康を守る規制で言えば、たばこ以外にもいろいろあります。例えば神奈川県ではディーゼル排ガスへの規制を法律より厳格にやっている。 
行政や権力が『こうしたルールを作ることが許せない、けしからん』というならば、条約脱退の運動をすべきですよ。同じ国際条約なのに京都議定書に関しては守らないのはおかしいという議論がありますが、たばこ規制枠組み条約ではまったくない。これはダブルスタンダードではないでしょうか。 
繰り返しになりますが、私たちの挑戦は本来は条約を批准した国が当然にやるべきであって、私たちが特異なことをやっているわけではない。 
また、行政がこうした健康に類する領域に口を出すのが好ましくないというのであれば、酒をめぐる規制も排ガス規制も実施すべきではないというのでしょうか。なぜたばこだけが、こうした批判にさらされるのでしょうか。行政は住民の健康を守る責任を負っていると考 
えています。 
ですから、私たちがやっていることは『禁煙ファッショ』でも『喫煙者イジメ」でもありません。まして先ほども申し上げたように、私の独断で勝手にやっているわけでもない。選挙で県民の信任を得た上で、民主政治のプロセスの中で進めているのです。 
ヘビースモーカーではありませんでしたが私自身も十三年前までたばこは吸っていました。ですから、喫煙者の気持ちもよくわかっています。吸う人にとって段々吸えるところが狭くなれば勘弁して欲しいと感じるのもわかります。しかし、自宅などのプライベートスペースや屋外までも禁煙にしようということではありませんし、ましてや個人の趣味、嗜好まで奪うつもりもありません。ただ公共的な室内空間では受動喫煙を防止するためのルールを作ってみんなで守ろうよというのが私の主張なんです。それが、なぜ、いけないのか。私は不思議で仕方ありません」

民間規制には法的に微妙な面も

—条例で、どのような施設を規制対象とし、どのような規制を掛けるつもりですか 
「実はそれがこの条例の一番難しいところです。私がいう公共的施設というのは 
たばこの煙が籠籠もってしまう、受動喫煙が及ぶ不特定多数の人が出入りする室内またはこれに準じる施設です。オープンエアな場所は煙は分散しますからこうした受動喫煙の議論からは外しています。誰が見ても公共的だといえる役所、病院、福祉施設、学校などは理解が得られやすい。 
難しいのは民間施設です。営業権がありますし、急に厳しい規制を掛けられるとお客様が減るという不安がある。私たちも営業になるべく影響が出ないよう、かつ受動喫煙の防止が効果的に進むような規制を考えているところです」

—レストランでもガラスで仕切ったり、分煙を徹底しているところは増えています。なぜ禁煙にこだわる… 
「今よりも受動喫煙対策を一歩でも進めていくという考え方に立って、条例ではそのような手法も認めていこうと考えています。十把一絡げに完全禁煙にするのは難しいでしょう。営業権を侵害されたと訴訟を起こされる可能性もあります。公共性の程度に応じて、完全禁煙もあれば一方で完全分煙も認めようといって規制のレベルを変えたり、段階的な導入といった手法も考えられますし、民間施設は一律に完全禁煙にはできないと思います。 
一口に公共的な施設といっても様々です。例えば生命や健康に携わる病院を完全禁煙にするといっても、それほど反対はないと思います。また博物館のように、そこの施設でなければ、用を足せないような施設もあれば、隣にも似た施設があり、そこで目的が達せられる施設もあります。いわば代替性といった要素でも左右されます。映画館の場合、そこで上映されている映画を見ることができなければ、代替の場所はどこか探さないといけない。これは博物館に近いでしょうね。これがレストランのような業種ではどうか。レストランは近隣に複数の店舗がありますから、このレストランでなければいけないという事情は映画館よりは弱いのではないでしょうか。細かくなりますが、そうしたことを今、検討していて、例えば『完全禁煙』『完全分煙」今は何もやっていないが『まずは分煙を図ろう』とか様々な手法が考えられます。判断材料も、公共性だけでなく『その施設への子供や青少年の出入りはあるか』などほかの基準も考えられる。大切なことは受動喫煙対策を実効性のある形で前に進めることです」

完全なコンセンサスは得られない

—実感として知事はこの条例理解はあると考えているのですか? 
「条例の規制対象となる利害関係者、すなわちレストランや旅館業界、パチンコ業界などは反対が多いですね。営業に響くからというわけです。しかし、禁煙になり売上げが必ず減るかといえば、それは一概に言えない。例えばレストランの空気が綺麗になれば、家族連れなどファミリー層が新たに来客するなど、新規開拓の可能性だってあるでしょう。ただ、店舗関係者の既得権を失うかもしれないという不安は理解します。そういう不安に対する説明責任は県として果たしていかなければいけないと考えています。 
一方で全面禁煙を是非やってほしいと求める方々もいます。医療関係者などが代表的です。そのほか、県民からも多くの声が寄せられています。たばこの健康被害を強調する人もいれば、たばこ文化やたばこのストレス抑制効果を語る人もおり、実に様々な意見がありますが、総じて一般の県民の皆さんを見るとたばこが健康に悪いことを認識しており、八割近くが条例の考え方に賛成しているのではないでしょうか。これが私の実感です」

—今の売上げに関する点ですが、条例の準備作業の一環で神奈川県が実施した施設へのアンケート調査があります。これを見ると受動喫煙対策を済ませた飲食店や娯楽施設では対策後、売上げが「減少した」と答えた施設が売上げが「増加した」と答えた施設よりも圧倒的に多い結果が得られています。店舗関係者の売上げ減の危惧は杞杞愛というより、実証的な結果ではありませんか 
「それは条例制定に先んじて自主的に受動喫煙対策を取った店舗や施設に聞いた調査ですよね。その店舗単独で取った対策だから、売上げが減る可能性が高いのは当然でしょう。何が言いたいかというと、駅の周囲に例えばレストランが五軒あったとします。うち一軒だけ禁煙にすれば、たばこを吸うお客は他の店に流れ売上げは減ります。でも条例ができ五軒全てのレストランが禁煙なら、お客はそんなには減らないと思います。県内のレストランが全て禁煙になっても県民が外食をやめることはないからです。そのデータは参考にはしていますが、だからといって禁煙化で売上げが必ず減るという根拠にもならないと考えています」

—県民の意識調査では88・5%がたばこ規制に賛成とあり、それが、条例制定の大きな後ろ盾になっています。しかし、「規制が必要か」という設問で規制方法まで触れた調査ではありません。また、県にたばこ対策で何をやって欲しいかという質問では第一位が喫煙所の整備で、分煙化や分煙の徹底を望む声が強いと読み取れます。 
「条例の内容を具体的に示す前の段階の調査ですから、規制方法まで細かくは尋ねていません。しかし、規制方法も含めた条例の内容については、改めてパブリックコメントを行って県民の意見を聞く予定です」

—コンセンサスは得られていないという批判もあります 
「施策を進めるにあたってコンセンサスを得るよう努めることは大事です。しかし、この問題の場合、何年議論しても、全員の意見が一致することはないでしょう。吸う人にとっては規制で吸う場所が狭まることに抵抗感を抱く人が多いし、吸わない人にとっては空気が綺麗になって嬉しいと感じる人も多いでしょう。世の中からたばこをなくしてしまえという極端な人もいます。個人の嗜好や、健康や規制に対する考え方も様々で完全なコンセンサスなど有り得ない。コンセンサスが得られていないという文句は、反対する人たちが必ず使う常套句なんです。大切なことは、民主政治のプロセスの中で議論を重ねた上で、最後は政治が決断しないといけないということです。そうでなければ改革など先に進まないのではないでしょうか。 
最後に、私は社会の変革は、国民の意識改革なくしてありえないと考えています。『今までこうだった』とか『ほかではやっていない」という内向きの考え方から脱して、空気が綺麗で、健康的な社会を神奈川から県民とともに実現していきたいのです」

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