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道州制は国・地方を通じた究極の構造改革だ

<『中央公論』2006年5月号掲載>

現在の道州制議論は単なる都道府県の枠組みの見直しにすぎない。
今、必要なのは、中央政府の縮小と地域の自立を目指した、国の再設計のはずだ

神奈川県知事 松沢成文

二○○六年二月二十八日、内閣総理大臣の諮問機関である第28次地方制度調査会(諸井虔会長)は、「道州制のあり方に関する答申」を行い、広域自治体改革の「具体策としては道州制の導入が適当と考えられる」とし、三つの区域例を含めて、道州制の制度設計について提言を行った。
私は、かねてから現行の都道府県制度の限界を指摘し、道州制の導入を主張してきた。
二○○三年の知事選挙では、「マニフェスト」の中に「道州制への転換を提案し、分権型の地域主権国家の実現を図ります」とし、任期中に「道筋をつける」ことを約束して当選したから、これを推進することは私の政治的責任でもある。

二○○六年二月二十八日、内閣総理大臣の諮問機関である第28次地方制度調査会(諸井虔会長)は、「道州制のあり方に関する答申」を行い、広域自治体改革の「具体策としては道州制の導入が適当と考えられる」とし、三つの区域例を含めて、道州制の制度設計について提言を行った。
私は、かねてから現行の都道府県制度の限界を指摘し、道州制の導入を主張してきた。
二○○三年の知事選挙では、「マニフェスト」の中に「道州制への転換を提案し、分権型の地域主権国家の実現を図ります」とし、任期中に「道筋をつける」ことを約束して当選したから、これを推進することは私の政治的責任でもある。

足りない国家像と戦略論

当時は、道州制導入といっても「何を夢のようなことを言っているのか」
「現職知事が現行の都道府県を否定するのか」と、議論すること自体がタブーのような雰囲気があった。同年には、全国知事会でも道州制の本格的な検討をすべきだと主張し、道州制特別委員会の設置を提案したが、ほとんどの知事は消極的であった。そのことを考えると、ここまで議論が進んだことは隔世の感がある。今回の答申も、基本的には評価できるし、歓迎すべきものと思っている。
しかし、今回の答申には問題点も少なくない。
第一に、道州制を地方自治制度の問題に限定して検討している点だ。今回の答申は、広域自治体の改革の問題と位置づけているが、道州制は「国のかたち」を組み替える改革でなければならない。もちろん今回は「地方制度調査会」の答申だからやむをえない面もあるし、答申でも簡単にことわってはいるが、たとえば道州の国政参加をどうするか、現在の省庁体制を維持するのかなど、国の政治行政に波及する論点を指摘することはできたはずだ。今回の答申では、単に都道府県をどう合併させるかというレベルの話になりかねない。
第二に、道州制導入の目的、達成目標が明確でない点だ。今回の答申は、国と地方の役割分担を見直し、これに沿って事務権限の再配分等を行うべきものとし、その具体策として道州制が適当であるとする。しかし、国と地方の適切な役割分担や権限の再配分を進めるだけなら、道州制でなくてもよいはずだ。また、目標内容があまりに抽象的で、何を実現したいのか、メッセージが伝わらない。目的・目標がクリアでなければ、改革のエネルギーは生まれてこない。
第三に、道州制を実現するための戦略や方法論が欠けている点だ。道州制導入にはまだまだ反対や抵抗も多い。特に霞が関の反対や抵抗は並大抵のものではないと予測される。実は、道州制の構想は過去にも何度かあったし、地方制度調査会の答申に盛り込まれたこともある(第4次地方制度調査会「地力制度の改革に関する答申」一九五七年)。しかし、そのつど各省庁の無視と抵抗によってつぶされてきた。こうした過去の経験を考えると、道州制の提言は、これらの反対をどう説得し、抵抗を排除するかという戦略論・方法論とセットでなければならない。今回の答申には、そうした視点が抜け落ちている。
そこで、本稿では、そもそもなぜ道州制を導入するのか、道州制はどのような制度とすべきか、そして道州制を実現するには何が必要なのかを検討し、道州制の実現につなげていきたい。

護送船団方式」からの脱却

これまでわが国では、国が政治行政の権限を保持し、産業界を育成するとともに、地方を指導して、落ちこぼれる地域のないよう各種の措置を行ってきた。いわば「護送船団方式」の政治行政である。そのために、法律で画一的な基準をつくり、国庫補助金で地域振興を図り、地方交付税で地域間格差を補填してきた。
こうしたシステムが、経済成長を支えるうえで重要な役割を果たしてきたことも事実である。
しかし、グローバル化と成熟の時代を迎えて、「護送船団方式」は行き詰まりを迎えている。
画一的な法律では地域社会の多様な課題に対応できなくなっているし、国庫補助金は政官業の癒着を生み出し、政策決定をゆがめている。地方交付税は地域の自助努力を妨げ、巨大な累積債務を生み出した。こうした方式をいったん排して「小さな中央政府」と「地域自立」の新しいシステムをつくる必要がある。
実は、従来の護送船団方式の中で重要な役割を果たしてきたのが都道府県である。
都道府県は、許認可行政や公共事業など国の法律や施策を忠実に実施してきたし、国の補助金や地方交付税を市町村や業界に配分する役割を果たしてきた。護送船団の中で、いわば「輸送船」の役割を果たしてきた。しかし高まる荒波を乗りこえるには、護送船団を解体して、それぞれの「船」を強化しなければならない。道州制の導入は、そうしたシステム転換を含みもった改革なのである。

焦点は「経済自立」「政策自立」

このように、道州制の目的が、「小さな中央政府と地域自立の新しい国家像」をつくることだとすれば、道州制導入のポイントは、「経済自立」と「政策自立」にあると考えられる。
まず、地域の自立には「経済の自立」が不可欠である。国の補助金や交付税に依存したままでは、国の統制を逃れることも、個性的な地域づくりもできない。もちろん「経済の自立」は、地域にとっていいことばかりではない。厳しい地域間競争が待っているし、経済格差が拡大する可能性もある。しかし、経済のグローバル化によって、この競争は国の限られたパイを分け合うゼロ・サム型の競争ではなく各地域が海外と直接交渉し、交流と発展を図る共存共栄型の競争になる。競争の質が変わるのである。
ちなみに、現在でも企業誘致をめぐる地域間競争には厳しいものがある。神奈川県では、二○○四年から、企業立地に対して全国トップクラスのインセンティブを与える「インベスト神奈川」を実行している。知事である私も、国内の先進企業を訪ね回り、海外にも出かけて企業の誘致を図るトップセールスを行ってきた。その結果、二○○五年二月現在、二八社の企業の本社、工場、研究所等の施設立地を進めることができた(拙稿「インベスト神奈川の挑戦」、VOICE二○○六年一月号掲載、参照)。
その過程で感じたのは、企業誘致は生き残りをかけた地域間競争の現場になっているということである。そして、この競争は、決められた国庫補助金を獲得するような競争と異なり、世界のあらゆる企業とどう協力して、新しい価値と活力を生み出すかという創造的な競争だということである。したがって、地域間競争が熾烈になればなるほど、地域の個性や資源が引き出され、国全体の経済活力は確実に増大する。日本経済の国際競争力を回復させるためにも、道州制による経済自立が必要なのである。

「政策自立」には立法権の分権を

もうひとつ、地域自立には「政策の自立」が不可欠である。これまでのように国が法律で細かく基準をつくり、これを自治体が忠実に実施するというやり方では、多様なニーズに応えるサービスはできないし、地域の自立は図れない。今後は、自治体が自ら政策を考え、自治立法(現行の条例)でそれを具体化することが重要である。道州ほど広域になれば、各種の政策的な取り組みが考えられる。
たとえば、産業政策、地域経済政策は、まさに道州の存在をかけた政策課題になろう。また、大気汚染や水資源対策などの環境政策、産業廃棄物の処理 森林・海岸保全などの広域的な課題も、道州単位で対応する必要がある。私は、道州制を単なる広域行政の問題に矮小化すべきではないと考えているが、このように拡大している広域的な課題に対応できることが、道州制の大きなメリットであることも事実である。
この「政策の自立」を図るためには、国が法律や政省令で細かく規定することはやめて、道州の自治立法(道州条例)にゆだねることが不可欠である。もちろん、外交など国が担うべき政策や全国的に統一すべき事項、たとえば通貨などマクロ経済政策や年金など社会保障政策については、法律で定める必要がある。しかし、道州が担う課題については道州の自治立法にゆだね、その政策判断を尊重しなければならない。
分権改革が行われたといっても、国の法制度はほとんど変わっていない。言い換えると、行政権の分権は進んだが、立法権の分権はほとんど行われていないのである。道州制には立法権の分権が伴わなければならない。

道州知事の任期は制限せよ

では、道州の制度や組織はどうあるべきだろうか。私の提案を簡潔に述べていこう。
第一に、道州の組織や運営については、法律(現行では地方自治法)で骨格を定めるほかは、各道州の自治立法(たとえば自治基本条例)で定めるべきである。たとえば、道州に知事と議会を置くことは法律で決めてもよいが、知事の権限や議会の定数は条例で決めるべきである。直接請求等の住民参加や住民投票の手続きも自治立法で決めればよい。
第二に、道州には執行機関としての知事と議決機関としての議会を置いて、いわゆる二元代表制(首長制)とすべきである。
議会から長を選出するという議院内閣制とする選択肢もありうるが、首長制は一回の選挙で政治の流れを変えられるから、政治にダイナミズムをつくり出すうえで有効である。また、議院内閣制では政党組織が政策形成の要になるが、現状では政党の中央組織主導で政策が形成されており、このまま分権化して、政党の中央組織が政策を決めて地方に下ろすことになっても意味がない。
第三に、道州知事には巨大な権限が集中することから、その任期は制限すべきである。多選によって起こりうるさまざまな弊害、つまり政治の独裁化、行政のマンネリ化、人事の偏向、議会や利益団体との癒着などから民主政治を予防するため、いわば権力の「時間的分散」を図るのである。
私は、現行の大規模自治体の長についても多選制限(三期以内)を提唱しているが、道州知事の場合は一層必要性が高い。この点は地力制度調査会の答申も同意見である。ただし、これを国の法律で定めるのではなく、道州の統治システムとして自治立法で定めるべきである。
第四に、権力分散の考え方から、教育委員会等の行政委員会は制度としては設置可能とし、実際に設置するか否かは道州の自治立法で選択するしくみとすべきである。
この点で、今回の答申は「道州には 審査・裁定等の機能を担うものを除き、原則として行政委員会の設置を法律で義務付けないこととする」としているが、自治立法で設置することは可能か、明確でない。また、教育委員等は道州の自治立法によって住民の直接公選とすることも考えられる。
第五に、警察も道州警察として分権化、市民化すべきである。現在の都道府県警察は、都道府県の機関でありながら、警視正以上の幹部職員は国家公務員とされ、警察庁が人事権を握るという変則的な制度がとられている。道州ではこれを分権化し、国家警察としての機能は警察庁に集約し、道州警察は道州の機関に純化すべきである。道州警察の代表たる警察長は、議会の同意を得て知事の任命とすることが考えられる。ただし、国際的・広域的な犯罪対策等については、警察庁長官の指揮権を認めるべきである。
第六に、道州制導入にあわせて大都市制度の改革に取り組むべきである。基礎自治体は多様であってしかるべきだが、地方自治の二層制を維持するうえで、そこには自ずから限度があろう。小きすぎる基礎自治体では、拡大する基礎行政を担いきれないため、さらなる市町村合併が必要になる。
一方、政令指定都市など大きな基礎自治体は、多くの行政権限を持つことができるが、大きすぎては住民自治が機能しない。市長や市役所に権力が集中し、極度な中央集権体制に陥ってしまう。「サイズ・アンド・デモクラシ−」という言葉があるが、人口が二○○万人を超えるような大きすぎる基礎自治体は分割を考えるべきである。
第七に、道州の財政は道州税を基本とし、現行の都道府県税を整理し、所得課税、法人課税、消費課税をバランスよく歳入にできるようにすべきである。国庫補助金は原則として廃止する。問題は道州間の財政調整のしくみだが、国による垂直調整のしくみは廃止し、最低限の調整を道州間の水平的な財政・調整制度で行うしくみとしてはどうだろうか。具体的には、各道州がGDPの一定割合を拠出して財政調整基金を設置し、そこから客観的な基準で財政力の低い道州に交付する。そして、この制度は、道州の代表によって構成する財政調整の機関が運用する。いずれにしても、経済自立の原則から、この財政調整は必要最低限の規模にとどめる必要がある。

一都三県を中心に「首都圏州」を設置せよ

道州の区域設定については 基本的には関係する都道府県間の協議と合意によるべきである。道州は新しい自治体の設置であり、都道府県の単なる合併ではないが、都道府県の廃止を伴う以上、当該都道府県の意思を尊重する必要がある。ただし、国が道州の区域のモデル・プランを示すとともに、移行期限を定め、期限内に合意できなかった地域・都道府県については、どの道州にも属さないという地域が生じないように、国が道州の区域を定める余地を認めるべきである。
このような道州への移行については、たとえば道川制推進基本法(仮称)を三者委員会で審議を行い、「道州制推進計画」を策定して、計画的に進めるべきである。
また、道州の区域・線引きについては、現行都道府県の単なる組み合わせ・合体ではなく、社会経済の実体にあわせて改めて設定すべきである。たとえば、温泉観光地である静岡県熱海市は、首都圏からの宿泊客が圧倒的に多く、首都圏との一体性が強いが、同じ静岡県でも浜松市は名古屋に近く、中部経済圏の一角を占めている。このような場合は、旧来の都道府県の区域にこだわらず、広域的な視野に立って区域設定をすべきであろう。
そして、区域設定にあたっては、各道州の経済的自立が図れるだけの規模が必要であるから、できるだけ大括りの区域にするべきであり、たとえば七か八くらいの道州にまとめることが考えられる。答申では、九道州案、一一道州案、一三道州案の三つが示されているが、道州規模のバランスに配慮したために、細分化しすぎている。道州間の競争は大切だが、何も人口や経済力の「規模」で競争する必要はないし、もともと一体的な社会経済圏を分断して力をそいだのでは、元も子もない。
ここで問題となるのは、首都圏をどうするかである。試論ではあるが、首都圏の社会経済的な一体性を踏まえるとともに、八都県市首脳会議(首都圏サミット)の実績を生かして、一都三県を基本として「首都圏州(仮称)」を設置してはどうだろうか。八都県市首脳会議は、一言」二〜三年、広域連携の密度を深め、活動を活発化させている。首脳会議を年二回の開催に増やし、共同事務局・事務所も設置し、連携課題も環境、交通、教育、観光など多岐にわたっている。さらに今年からは、各都県の商工会議所はじめ民間セクタ—とも連携する「首都圏連合フォーラム」も立ち上がる。
私は、二年前に、こうした姿を「首都圏連合構想」として提案したが(VOICE二○○四年一月号参照)、それが実現に向かっているということもできる。いずれにせよ、こうした広域連携の実績は、制度構想にあたっても重要である。
今回の答申では、南関東と北関東(または北関東信越)を分割する案が示されたが、埼玉県をはじめとする北関東の人口密集地域は首都圏の一部をなし、経済圏としてはもちろん、通勤通学圏としても一体であるから、これを切り離したのでは首都圏の広域課題への対応が困難になるし、首都圏の「活力」を生かすことができない。もちろん、首都圏州の区域は、一都三県を基本とするが、・関東甲信越の一部の地域がこれに加わることもありえよう。同時に、東京の中心部(港区、千代川区、中央区の三区)の区域は首都の特殊性、一体性に配慮して「東京特別市」を設置してはどうか。首都は、国政。外交等の中枢機能をもつため、独自のセキュリティ強化が必要になる諸外国でも特別な地方制度が導入されていることが多いが(米国のワシントンDC、韓国のソウル特別市など)、東京の場合も制度的な工夫が求められよう。
この「東京特別市(仮称)」は、基礎自治体の一種であるから、首都圏州による広域調整(交通計画の決定、港湾計画の調整、水資源の調整など)には従うが(その意味ではこの区域も首都圏州の一部ではあるが)。それ以外は道州から独立した地位を認めるものとする。
このようなしくみを構築することによって 首都の特殊性に対応しつつ、首都圏全体の広域政府を形成することが可能になると思われる。

参議院を分権国家の動脈に

道州制に移行した場合に重要なのは、道州や市町村が国政に対して意見を映きせるしくみをつくることである。道州制に移行したとしても、国が法律で自由に自治体の権限を制限したり、自治体の財源を制約したのでは、分権型国家にはならない。連邦制国家とは違って、道州といえども国の法律には縛られるから、自治体側が国の立法行為に何らかの関与をなしうるしくみが必要になる。
そこで私は、現在の参議院を、地方選出の議員によって構成される地方代表の機関にすることを提案したい。そもそも参議院については、衆議院のカーボンコピーなどと言われ、その存在意義が問われてきた。連邦制国家であればともかく、単一主権国家の日本であえて公選議員による二院制をとる必要性は薄い。昨年八月の郵政民営化法案をめぐる対応をみても、衆議院で可決された法案が参議院で否決され、しかも否決した参議院は解散できないため、可決した衆議院を解散するという事態が生じたが、これなども二院制の問題点といえよう。
そこで、フランス議会の上院のように、参議院を地方の意思を国政に反映させる機関とし、その議員は道州議員と市町村議員の代表者(兼職を認める)によって構成するものとしてはどうだろうか。
ただ 現在の憲法では両議院の議員は国民の公選とされているから(四三灸一頃)、この改革には憲法改正が必要である。そもそも私は、国と地方のあり方についても、また道州制についても、憲法に明記すべきだと考えている(拙稿『真の地方分権』を実現させるには改憲が不可欠だ」、「中央公論」二○○四年十二月号掲載。参照)。道州制については、憲法を改正しなければ導入できないとは考えていないが、憲法上の制度として位置づけることが望ましい。そこで、憲法改正の際には、ぜひ参議院改革を行うべきである。
具体的にいえば、まず道州議会の議員から互選で道州の代表議員を選出する。仮に道州ごとに四名とし、道州が八つだとすれば、合計三二名の議員が選ばれる。次に市町村議会の議員から市町村の代表議員を選出する。一」の場合は、市町村議会の連合組織(現在、都道府県単位で設置されている議長会を基礎として道州単位で設置する組織)が選任するのが現実的であろう。仮に市町村代表も各四名だとすれば三二名、あわせて六四名の議員を選出することになる。議員間の合意形成を図るためにも、議員の数はあまり多くない方がよい。
この新しい参議院に対しては、基本的には国民の直接公選による衆議院の優越を認めてよい。たとえば、通常の法案について衆議院と参議院が異なる議決を行った場合は、衆議院の議決を優先させる。
しかし、地方の利益を侵害する議案(自治体の権限を制限し、または義務を課すような議案)については、必ず参議院の議決を要するものとし、地方の意思を反映させるしくみとする。たとえば、介護保険法の制定など自治体に新しい事務処理や財政負担を義務づけるような法律を制定する場合でも、現在では自治体の意見を反映させる制度はないが、地方代表による参議院の議決が必要になれば、地方の理解を得る必要が生じるのである。あわせて、この参議院を補佐するため、その付属機関として「地方分権調査機構」を設置し、地方自治に関する調査、建議等を行わせるとともに、現行の「国地方係争処理委員会」を参議院の付属機関とし、国と道州の紛争の調停、斡旋を行うものとする。一」のように、参議院を国と地方を結ぶ動脈ないし潤滑油の役割を果たす機関とすべきである。

政治家連合VS霞が関

道州制を導入すれば、内政に関するほとんどの機能は道州と市町村が担当することになるから、国の省庁は大幅にスリム化できるし、しなければな医ない。まず各省庁の地方支分部局は、法務局などを除いてほとんど不要になろう。また文部科学省、国土交通省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省は大幅に縮小するから、再編統合が求められる。各省庁に残される機能は、国際的な問題を中心とする情報収集し政策立案の機能であろう。
各省庁がこうした「政策官庁」として脱皮するためには、道州制の導入はよい機会になるのではないだろうか。これに伴って、多くの国家公務員の身分をどうするかが切実な問題になる。その身分保障に配慮しながら、道州側の人事計画とどうすりあわせるかが課題になろう。
また、特殊法人などの国の外郭団体については、その必要性を吟味したうえで、存続すべきものの多くは道州の監督下に移行することになろう。このように、道州制の導入はまさに国の「統治機構」を組み替える話なのである。
道州制に対しては、根強い反対論や慎重論もある。今後は、具体的、実践的な検討と十分な議論が必要だが、より重要なのは新しい国家像をつくるという意志と構想ではないだろうか。そうした基本的な考えで一致できれば、議論は前進できると思う。
当然ながら、もっとも強い反対・抵抗は、権限とポストを奪われる霞が関であろう。
これまでも地方制度調査会の答申の多くが、各省庁の反対と抵抗で実現しなかったことは前述のとおりである。また、三位一体の改革においても、一つの補助金の利権を失うことにもすさまじい抵抗をみせた。今回の道州制改革も、今回の答申にとどまっていては、握りつぶされるおそれが高い。
狭い「省益」に基づく反対や抵抗を乗りこえるには、政治のリーダーシップと国民世論の盛り上がりが不可欠である。そのため、たとえば次期参議院選挙と総選挙では、各党の「マニフェスト(政権公約)」に道州制実現のプログラムを期限付きで盛り込んではどうだろうか。さらに、一方の当事者である全国知事会においては、新聞各紙のアンケート調査の結果をご覧になれば分かるように、半数以上の知事が道州制の導入に賛成している。したがって、広域自治体の当事者である全国知事会でも道州制の推進体制をしっかりと構築すべきである。
こうして、改革派の国会議員と全国知事会が道州制推進の「政治家連合」をつくり、スクラムを組んで、霞が関の官僚と族議員の抵抗を乗りこえなければならない。いまこそ、国と地方の政治家が力を結集し、国民世論に訴えその後押しを受けて、二十一世紀の「国のかたち」=「分権型国家」を目指す、この一大プロジェクトに挑む好機である。

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