No.29 【二宮尊徳のリーダーシップ】「まず自ら戒める」に学ぶ、変革を導く覚悟
組織に変革を促し、人々を導くリーダーにとって、最も重要な資質とは何でしょうか。二宮尊徳の生涯、特に小田原藩の飢饉救済における彼の行動は、「まず自ら戒める」という、リーダーが持つべき自己犠牲と覚悟の本質を、鮮やかに示しています。
尊徳は以下のように、リーダーシップの絶対的な前提条件を説きます。
「人を戒めようと思ったら、まず自ら戒めることが肝心である。まず自分の道心で自分の人心を戒めてみて、人心が言うことを聞いたならば、他人を戒める資格がある」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
これは、「言行一致」の重要性を超えた、リーダーの「内省」と「自己規律」の勧めです。部下に規律を求める前に、まずリーダー自身が誰よりも厳しく自らを律する。その揺るぎない姿勢があって初めて、リーダーの言葉は力を持ち、人々を動かすことができるのです。
また、尊徳は以下のように、リーダーの自己犠牲的な姿勢が、組織文化に与える絶大な影響について語りました。
「たといそれが善人で、よく施したとしても、自分が驕奢でいるものだから、受けるものが恩とも思わずに、その贅沢をうらんで己の驕奢を止めない」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)
リーダーが範を示すことの重要性を示しています。経営者が贅沢をしながら従業員に倹約を説いても、誰も従いません。リーダー自らが質素な生活を送り、そこで生じた余剰を従業員や社会に還元する。その「誠意」ある姿勢こそが、組織全体のエンゲージメントを高め、健全な文化を育むのです。
この哲学を最も劇的に体現したのが、天保の大飢饉における小田原藩での出来事です。藩主の命令を受けて蔵米を放出しようとする尊徳に対し、家老たちは前例や手続き論に固執し、実行をためらいます。領民の命が刻一刻と失われていく中、尊徳は、彼らに対してこう宣言しました。
「領民は死亡の危機に瀕している。明日から各位、断食して役所に出られ、この評議が決するまでは食事をなさるな。私もまた断食してこの席に臨む」
これは、リーダーである自分が、まず最も厳しい形で責任と覚悟を示すという、究極の自己規律の実践です。この命を懸けた尊徳の「不動心」に圧倒され、家老たちはついに蔵を開くことを決断しました。
尊徳の教えと行動は、リーダーシップとは、権力や言葉で人を動かすことではなく、自らが誰よりも先にリスクを取り、犠牲を払い、その覚悟ある行動によって人々を導くものであるという、時代を超えたリーダーの本質を、私たちに教えてくれます。
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