No.13【二宮尊徳のイノベーション論】 「無尽蔵をひらく大道」に学ぶ、価値創造の経営
二宮尊徳の思想は、単なる倹約や再分配にとどまりません。その真骨頂は、「推譲」の先にある「増産」、すなわち、社会全体の富そのものを増大させる「価値創造(イノベーション)」の哲学にあります。
尊徳以下のように、世間で一般的に語られる「増減」が、本質的な富の増加ではないことを見抜いています。
「世間で増減といっているものは、たとえば水を入れた器があちこち傾くようなもので、あちらに増せばこちらが減り、こちらに増せばあちらが減るだけで、水そのものには増減がありはしまい」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)
これは、既存のパイを奪い合う「ゼロサムゲーム」の構造を喝破しています。M&Aやシェア争いは富の所有者が変わるだけで、市場全体のパイは大きくなりません。 尊徳が目指したのは、これとは全く異なる「プラスサム」、すなわち新たな価値を創造する道でした。
「わが道はこれと異なり、鍬や鎌を鍵として、無尽の蔵を開き、太陽の蓄えている穀物を引き出して、天下の民を養うのであって、増すことふえること極まりない」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
これは、現代経営における「イノベーション」と「技術開発」の重要性を示しています。尊徳にとって、鍬や鎌は単なる農具ではなく、自然界に眠る無限の可能性(無尽蔵)を引き出すための「鍵」でした。新しい技術やアイデアを用いて、これまで活用されていなかった資源から新たな価値を創造し、社会全体のパイを拡大すること。これこそが、尊徳が目指した「真の増殖」であり、イノベーションの本質なのです。 尊徳のすごさは、この理念を具体的な技術力とリーダーシップで実現した点にあります。
彼は、用水路の堰の構築など、生産性向上のためのインフラ整備に心血を注ぎました。特に「極楽普請」と語り継がれる堰の建設では、川幅に合わせた茅葺屋根を川に沈めるという、常識にとらわれ-ない画期的な工法を編み出し、自ら危険な作業の先頭に立つことで難工事を成功に導きました。 これは、優れたビジョン(理念)、それを実現するための卓越した技術力(エンジニアリング)、そしてチームをまとめ上げる強力なリーダーシップの三つが揃って、初めてイノベーションが成し遂げられることを示しています。
尊徳の教えは、企業が持続的に成長するためには、単に既存の市場で競争するだけでなく、技術と知恵を駆使して新たな価値を創造し、社会全体の富を増大させるという、崇高な使命を持つべきであることを、私たちに力強く教えてくれます。
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