No2「二宮尊徳の信奉者たち」~ギャレット・ドロッパーズ~
明治の文明開化の頃、多くの日本人が古い教えを捨てて西洋の文物に飛びつきました。しかし、そんな時代に、西洋から来た一人の経済学者が、尊徳(金次郎)の教えの中に「世界に通じる経済理論」を発見したことをご存じでしょうか。
その人物は、ギャレット・ドロッパーズ(1860-1927)。福沢諭吉に招かれ、慶應義塾大学で教鞭をとったアメリカ人経済学者です。彼は尊徳の思想を初めて体系的に世界へ紹介した、いわば「尊徳の再発見者」でした。
1894年、ドロッパーズは日本アジア協会での講演で、それまで精神論として語られがちだった尊徳の教えを、冷静な経済学の視点で解剖しました。彼が驚愕したのは、尊徳の「報徳仕法」が、当時ヨーロッパで最先端とされていた「信用組合」や「協同組合」のシステムと酷似していたことです。
特に「推譲(すいじょう)」という、利益の一部を社会や将来のために積み立てる考え方について、ドロッパーズは単なる慈善ではなく、資本の蓄積と再投資による「持続可能な経済循環」であると見抜きました。彼は尊徳を、アダム・スミスらと並ぶ独創的な経済思想家として高く評価したのです。
ドロッパーズの功績は、当時の日本人に「逆輸入」の視点を与えたことです。西洋崇拝で足元の知恵を軽視していた日本人は、本場の学者による「尊徳のシステムはドイツのライファイゼン信用組合にも匹敵する」という称賛に衝撃を受け、改めてその価値を見直しました。内村鑑三が『代表的日本人』で尊徳を取り上げたのも、このドロッパーズの影響があったと言われています。
現代においても、彼の視点は「経済なき道徳は寝言であり、道徳なき経済は犯罪である」という尊徳の言葉の正当性を証明しています。利益追求(エコノミー)と社会貢献(モラル)は対立するものではなく、最も道徳的な行いこそが長期的には最も経済合理的であるという真理です。信用、協力、長期的視点。これらは道徳用語であると同時に、最強の経済用語でもあります。
二宮尊徳と福沢諭吉。この二人の偉大なる改革指導者を結びつないだのは、明治時代にアメリカからやってきたギャレット・ドロッパーズという経済学者だったのです。
遠い異国からやってきて、薪を背負う像の奥にある論理を見抜いたドロッパーズ。自国の文化に自信を持てなくなった時、あるいは経済活動の指針に迷った時、私たちはこの「青い瞳の理解者」の視点を思い出すべきです。普遍的な価値は、案外、私たちの足元にあるのかもしれません。
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