No.35【二宮尊徳の決断力】「善心がおこったら、すぐ行う」に学ぶ、行動の哲学
「言うは易く行うは難し」ということわざがあるように、どんなに崇高な理念や計画も、それを実行に移す「決断力」がなければ絵に描いた餅に終わります。二宮尊徳の生涯は、まさにこの「決断と実行」の連続でした。彼の教えは、思考を行動に移すことの重要性を、私たちに力強く教えてくれます。
尊徳は以下のように、善悪の判断基準は、心の中の思いではなく、実際の行動にあると断言します。
「朝な夕なに善を思っていても、善事をしなければ善人とは言えない」
「善心がおこったら、すぐさまこれを実行に現すがよい。飢えた人をみて哀れと思っても、食物を与えなければかいがない」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)
これは、現代のビジネスパーソンが陥りがちな「分析麻痺」への警鐘です。完璧な計画を立てるために分析を重ねるばかりで行動に移せなければ、何も生み出すことはありません。「善心がおこったら、すぐ行う」。この言葉は、アイデアが浮かんだら、まず小さな一歩でもいいから行動に移してみることの重要性を示しています。
では、なぜ多くの人は行動できないのでしょうか。尊徳は、以下のように貧困から抜け出せない人々の思考パターンを指摘します。
「貧しい人が草を刈ろうとして鎌がない場合に、これを隣から借りて草を刈るのが常のことだが、それが貧困から抜け出られぬ根本の原因なのだ」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)
目先の短期的な利益(借りた鎌で草を刈る)にとらわれ、長期的な投資(日雇いで稼いで鎌を買う)を怠るという貧困のサイクルです。尊徳が促しているのは、この悪循環を断ち切るための「決断」です。今までのやり方を変え、未来のために今、痛みを伴う投資を行う。このパラダイムシフトこそが、停滞した状況を打開する唯一の方法なのです。
尊徳の生涯は、まさにこの「決断」の連続でした。桜町領(現・栃木県真岡市内)の復興を命じられた際、彼はそれを「天命」と受け止め、一家を挙げて移住するという一大決断をします。そして、その覚悟を示すために、それまで築き上げた全財産を売却して復興資金に充てました。
しかし、その改革は反対派の妨害で行き詰まります。絶望の淵に立たされた彼は、再び大きな決断をします。成田山新勝寺にこもり、二十一日間の断食修行を行うことで、自らの「不動心」を鍛え直したのです。この強固な信念と決断力が、最終的に抵抗勢力の心を動かし、改革を成功へと導きました。
尊徳の偉業は、単なる知恵や勤勉さだけでなく、重要な局面で、私利私欲を捨て、大義のために全てを投げ打つという、彼の並外れた「決断力」によって成し遂げられたのです。
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