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No.34【二宮尊徳の自己規律論】「己に克つ」に学ぶ、リーダーの本質

二宮尊徳の思想の根幹には、「己に克つ」という、極めて厳格な自己規律の哲学があります。これは、人間の自然な欲望(天道)と、社会的な使命を果たすための理性的な努力(人道)を明確に区別し、後者を優先する生き方です。彼は、この自己規律こそが、個人と組織を成功に導く唯一の道であると説きました。

尊徳は以下のように、人間の心と田畑を重ね合わせ、「己に克つ」ことの本質を述べました。

「およそ人の身があれば欲があるのは天道であって、田畑に草が生じるのと同じことだ」

「『己』とは私欲のことだ。私欲は、田畑にたとえれば草だ。『克つ』とは、この田畑に生じる草を取り捨てることを言うのだ」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)

これは、現代のリーダーに求められる「セルフマネジメント」の重要性を示しています。利益や名声といった私欲は、放置すれば組織という田畑を荒らす「雑草」となります。リーダーの役割は、常に自らの心を内省し、組織の目標達成を阻害する「私欲」という名の雑草を、意識的に取り除き続けることなのです。

では、どうすれば「己に克つ」ことができるのか。尊徳は、その具体的な方法として、徹底したミニマリズムを提唱します。

「着物は寒さをしのぎ、食事は飢えをしのぐだけで十分なものだ。そのほかはみんな無用のことだ」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)

これは、現代でいう「エッセンシャル思考」そのものです。生きるために本当に必要なものを見極め、それ以外の余計なものは、自らを堕落させるノイズとして排除する。この自己規律が、リーダーを道から外れさせないための、強力な防御壁となるのです。

この「己に克つ」ことができなかった人間の末路を、尊徳の盟友であった三瓶又左衛門の悲劇として、生々しく物語っています。

桜町領(現・栃木県真岡市内)復興の同志であった三瓶は、目前の出世に目がくらみ、尊徳との約束を破って権力の座に就きます。結果、奢侈にふけり初心を忘れた彼は失脚。尊徳は再起の道として、全財産を貧者に譲り、困苦の生活の中で過ちを悔いるという、徹底的な「己に克つ」ことを命じますが、三瓶はそれを受け入れずに小田原に戻り、極貧のうちに生涯を終えました。

この逸話は、リーダーにとって「己に克つ」ことがいかに困難で、しかし、いかに重要であるかを物語っています。尊徳の教えは、リーダーとは、誰よりも厳しく自らを律し、私利私欲を乗り越えて、組織と社会のために尽くす存在であるべきだという、時代を超えたリーダーの理想像を私たちに示しています。

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