No.11【二宮尊徳の財務戦略】「貯蓄は譲道の一つ」に学ぶ、企業の持続的成長の秘訣
二宮尊徳の哲学「推譲」を経済的に支えるのが「貯蓄」です。しかし、これは単なる守銭奴の行為ではなく、未来を豊かにするための、極めて戦略的で積極的な「譲道」の一環でした。
尊徳は以下のように、貯蓄の本質を明確に定義しています。
「多くかせいで銭を少なくつかい、多く薪をとって焚くことは少なくする。これを富国の大本、富国の達道という。(中略)その貯蓄ということは、今年の物を来年に譲る、一つの譲道なのだし(中略)。こうしてみると、人道は貯蓄一つで成り立つとさえいえる」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)
「多くかせいで銭を少なくつかい」とは「売上最大化・経費最小化」の原則です。そこで生み出された利益を蓄えることは、「今年の物を来年に譲る」という未来への投資(譲道)に他なりません。尊徳は、貯蓄を未来を創造するための積極的な行為と捉えていたのです。
では、何のために貯蓄するのか。尊徳はその戦略的な目的を三つ挙げています。
「わが法は倹約ばかりしていると言う者がある。倹約のために倹約をするのではない。異変に備えるためなのだ。(中略)財を積むために積むのではない。国用を足すためなのだ。(中略)国を興し民を安んじるためなのである。(中略)吝嗇に陥ることのないようにせねばならぬ」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
これは、現代企業の財務戦略の根幹、すなわち①リスクマネジメント(異変に備える)、②成長投資(国用を足す)、③社会貢献(国を興し民を安んじる)を示しています。
さらには、下記の具体的な「25%ルール」が示されています。
「およそ国用を制するには、一年の歳入を四分してその三を用い、その一を余して貯蓄する。(中略)三を用いて一を蓄えるのは天地の道である」(『報徳記』斎藤高行著より)
自然界が四季のうち冬の一期を未来への種として蓄えるように、収入の25%を貯蓄に回す。これを徹底すれば、どんな危機も乗り越えられる強靭な財務体質が築けると説きます。これは、現代のBCP(事業継続計画)にも通じる普遍的な知恵です。
尊徳の教えは、貯蓄が単なる節約ではなく、未来を創造し、危機を乗り越え、社会に貢献するための、極めて戦略的な経営活動であることを教えてくれます。
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