No.25【二宮尊徳の財務戦略】「富を保つ道」に学ぶ、持続可能な経営の原理
企業の繁栄と衰退は、単なる運や偶然によるものではありません。二宮尊徳は、その根底には自然の法則と同じく、厳然たる「因果」が存在すると説きました。そして、その循環の中で富を持続させるための「人の道」として、「分度」という極めて戦略的な財務原則を提示しています。
尊徳は以下のように、富と貧困が循環するのは自然の摂理(天の道)であるとした上で、その中で人間が富を保つための能動的な方法(人の道)について述べています。
「その道は何かと言えば、分度がそれである。分を立て、度を守れば、その富は極まることがない。極まることのない富をもって人を救えば、上は天命にかない、下は人心に合するわけで、富を保つ道として、これにまさるものがあろうか」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
これは、現代経営における「サステナビリティ(持続可能性)」の考え方です。好景気や不景気の波にただ流されるのではなく、自ら規律(分度)を立てて経営をコントロールし、それによって生まれた余剰をもって社会に貢献する(人を救う)。これこそが、社会からの信頼を得て、企業を永続させる唯一の道であると説いているのです。
さらに尊徳は、貧富が生まれる原因を、極めてシンプルな収支の算術で解き明かします。「およそ金は、倹約する者に集まり、おごる者から散じてゆくのだ」。収入の範囲内で支出をコントロールする(分内に退く)企業は富み、収入を超えて支出する(分外に進む)企業は貧する。この単純明快な法則こそが、貧富を分ける絶対的な原因であると尊徳は断言します。企業の持続可能性は、この基本的な財務規律を守れるかどうかにかかっているのです。
この教えを商売で実践したのが、小田原の菓子屋、福山滝助です。彼は尊徳の思想に深く感銘を受け、「報徳商い」を実践しました。それは、「百文につき一文しか利益を考えなかった」という、極めて低い利益率での商-売でした。しかし、その誠実な姿勢が評判を呼び、店は「終日寸暇もないほど」繁盛したといいます。これは、単なる安売りではありません。自社の利益(分)を厳しく律し、その分を顧客に還元するという「分度」と「推譲」の実践です。その結果、顧客からの絶大な信頼を得て、長期的な繁栄を築き上げたのです。福山滝助はその後、小田原報徳社など尊徳直伝の結社仕法の発展継承に身を捧げました。
尊徳の教えは、富とは、厳格な財務規律(分度)を守り、それによって生まれた余剰を社会に還元することで、初めて持続可能になるという、時代を超えた経営の本質を私たちに教えてくれます。
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