No.22【二宮尊徳の人材登用論】「忠臣・謀臣は見極めねばならぬ」に学ぶ、リーダーの眼力
組織を率いるリーダーにとって、人材を見極める「眼力」は、最も重要な資質の一つです。二宮尊徳は、その波乱に満ちた改革の過程で、人の本質を見抜くための、深く、そして実践的な洞察を得ていました。
尊徳は以下のように、論語の「己に如かざる者を友とするなかれ」という言葉の一般的に誤解されがちな解釈を正します。
「人々には、みんなそれぞれ長所があり、短所もどうしてもあるのだから、この言葉は、その人の長所を友として、短所は友とするなという意味と心得るがよい」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)
これは、現代の「強みに着目したマネジメント」そのものです。リーダーの役割は、部下の短所をあげつらうことではなく、その長所を最大限に引き出し、組織の力として活かすことにあるのです。
しかし、尊徳は単なる性善説を唱えていたわけではありません。彼は、リーダーに取り入ろうとする「謀臣」の巧妙な手口を、具体例を挙げて厳しく警告しています。
ある重臣が、植木好きであることにつけ込まれ、巧妙なはかりごとによって、不実な人物を忠義者と信じ込まされてしまう逸話を挙げ、「興国安民の法に従事するものは、とくと用心しなければならない」と戒めています。
これは、現代の組織においても起こりうる「社内政治」や「忖度」の危険性を示しています。リーダーの個人的な好みを利用し、巧妙に取り入ってくる人物の真の意図を見抜けなければ、組織は危機に陥ります。
尊徳のリーダーシップの真骨頂は、こうした「謀臣」ですらも、その熱意と徳によって変えてしまう点にあります。桜町領(現・栃木県真岡市内)の改革において、当初、尊徳を失脚させるために送り込まれた藩士・豊田正作は、まさに「謀臣」でした。しかし、尊徳の「不動心」と、村が実際に復興していく姿を目の当たりにする中で、正作は改心し、後には尊徳の熱心な弟子の一人となりました。
この逸話は、リーダーが持つべき究極の力を示しています。それは、単に「忠臣」と「謀臣」を見極めるだけでなく、その誠実な姿勢と圧倒的な実績によって、「謀臣」の心をも動かし、組織の力に変えてしまう「徳化」の力です。
尊徳の教えは、リーダーとは、人の長所を見出す温かさと、悪意を見抜く厳しさ、そして、敵対者すらも味方に変えるほどの「人間力」を兼ね備えるべきであるという、リーダーシップの奥深いあり方を示しています。
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