No.40【二宮尊徳の国家経営論】「善政と分度」に学ぶ、持続可能な成長戦略
国家や企業のリーダーにとって、国民や従業員の幸福を追求する「善政」は永遠の課題です。二宮尊徳は、その実現のためには、小手先の対策ではなく、根本的な経営哲学の転換が必要であると説きました。その核心は、短期的な収奪ではなく、長期的な投資によってパイ全体を拡大させるという、持続可能な成長戦略にありました。
尊徳は以下のように、財政難に陥ったリーダーが取りがちな短絡的な行動を、「種を蒔かずに刈り取る」という農作業にたとえ、痛烈に批判します。
「国君が分度を失って衰貧に陥り、人民からしぼりあげて富を得ようと思うのは、種を蒔かずに刈りとろうとするようなもので、どうしたって、できるはずはない」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
これは、現代経営における「リストラ偏重」や「短期的な利益至上主義」への警鐘です。業績が悪化すると、多くの経営者は研究開発費や人件費を削減し、目先の利益を確保しようとします。
しかし、それは将来の成長の「種」を食いつぶす行為であり、長期的には組織をさらに衰退させるだけです。尊徳は、真のリーダーであれば、「貧民を恵み、荒地を開く」、すなわち従業員のエンゲージ-メントを高め、新規事業に投資するという、一見回り道に見える王道を選ぶべきだと説いています。
では、リーダーが取るべき「善政」とは何か。尊徳は、その効果を季節の風にたとえて説明します。
「堯舜(古代中国の聖人)の善政はおだやかな春風のようであった。(中略)わが法もまた春風のようなものだ。だから仕法を実施すれば、民心は感激し、農力は奮い立ち、税収も増してくる」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
優れたリーダーシップは組織に「春風」を吹かせ、メンバーは安心感の中で自発的に能力を発揮し、組織全体の生産性は向上します。逆に、恐怖による経営は、組織から活力を奪い去る「秋風」となるのです。
しかし、この「春風」を吹かせるためには原資が必要です。尊徳は、その原資を生み出すために、増税ではなく、まずリーダー自らが身を切る改革、すなわち「分度」を立てることが不可欠であると断言します。
「国家の分度が立っていなければ、税収がいくら増えても、国費が足らない。国費が足らなければ仁沢を施すことができない」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
これは、現代の財政再建や企業再生における鉄則です。メンバーに痛みを強いる前に、まず経営陣自らが役員報酬のカットなどの「分度」を断行し、無駄を削減する。そして、そこで生み出された余剰資金を成長戦略に再投資する。この姿勢こそが、改革に対する組織内外の信頼を勝ち取るための唯一の道なのです。
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