No38【二宮尊徳の国家経営論】「政治の要は国民の食を足らすこと」に学ぶ、リーダーの使命
リーダーの最も重要な使命とは何でしょうか。二宮尊徳は、その答えはただ一つ、「国民(従業員)の食を足らすこと」、すなわち、人々が経済的な不安なく、安心して生活できる基盤を築くことにあると断言します。これは、現代のあらゆる組織のリーダーが胸に刻むべき、普遍的な指針です。
尊徳は以下のように、国家や組織が衰退する根本原因を、人々の経済的な困窮にあると指摘します。
「食があれば民は集まり、食がなければ民は散じる。論語に、政治の要は『食を足す』ことだとある。誠に重んじるべきは、人民の米びつだ」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)
これは、現代経営における「従業員エンゲージメント」の重要性を示しています。従業員が生活の不安を抱えていれば、仕事への意欲を失い、組織の生産性は低下します。リーダーの第一の責務は、従業員が安心して働ける経済的な基盤を確保すること。これこそが、あらゆる組織活動の出発点なのです。
では、どうすれば「食を足す」ことができるのか。尊徳は、相馬藩(現・福島県内)の家老に対し、国家経営の要諦は「施す」と「取る」の順番にあると説きます。
「いま、相馬のまつりごとは、施すことを先にしているか、取ることを先にしているか。いや、取ることを先にしていたら、たとえ、千万の労を積み、百年の辛苦を尽くしても、決して中興再復のときは来ないのだ」
これは、リーダーシップにおける「ギブ・アンド・テイク」の原則です。メンバーに貢献や成果(取る)を求める前に、まずリーダーが、働きやすい環境や成長の機会、そして公正な報酬(施す)を提供する。この「ギブ・ファースト」の精神こそが、メンバーの信頼を勝ち取り、組織を再生させる唯一の道なのです。
この尊徳の教えが、いかに強力な効果を持つかを証明したのが、相馬藩の改革の成功です。小田原藩の藩士たちが尊徳に激しく抵抗したのとは対照的に、相馬藩は驚くほどスムーズに報徳仕法を受け入れました。その背景には、天明の大飢饉で人口の6割を失うという、壊滅的な打撃を受けた苦い経験がありました。彼らは、従来のやり方では立ち行かないことを痛感し、藁にもすがる思いで尊徳の教えを求めたのです。
尊徳の教えは、リーダーの使命とは、まずメンバーの生活基盤を安定させ、見返りを求めずに貢献し、組織に希望を与えることであるという、時代を超えたリーダーシップの本質を私たちに教えてくれます。
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