No.26【二宮尊徳の商道】「売って喜び、買って喜ぶ」に学ぶ、共存共栄のビジネスモデル
二宮尊徳の思想は、単なる農村復興の指南にとどまらず、近代日本の産業を担う多くの経営者に多大な影響を与えました。中でも、「経営の神様」と称された松下幸之助は、尊徳の教えを自らの経営哲学の根幹に据え、その思想を現代的に昇華させたことで知られています。その核心は、売り手と買い手が共に利益を得る「共存共栄」のビジネスモデルにありました。
尊徳は以下のように、あらゆる人間関係の理想的な姿を「喜悦の情」に見出し、商売もまたそうあるべきだと説いています。
「商売のしかたは、売って喜び買って喜ぶようにすべきだ。売って喜び買って喜ばないのは道ではない。買って喜び売って喜ばないのも道ではない」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)
これは、現代ビジネスにおける「Win-Win」の関係構築の重要性を示しています。売り手だけが儲かる、あるいは買い手だけが得をするような取引は、決して長続きしません。
この思想を、松下幸之-助は「商売というものは売る方も買う方も双方が喜び、双方が適正な利益を交換するという形でやらなければ長続きしない」という言葉で表現しました。二人の思想は、経済活動を通じて関係者全員が幸福になる「共存共栄」を目指す点で、完全に一致していたのです。
松下幸之助はさらに、企業の社会的責任について、尊徳の「道徳経済一元論」と共鳴する考えを述べています。「企業は公のものです。世の中に役立ち奉仕してこそその使命を果たしたと言えます」。これは、尊徳が『語録』で説いた、自社の身の丈を知り、社会のルールの中で誠実に事業を行うべきだという思想に通じます。両者とも、企業活動は、営利と社会正義の調和の上に成り立つべきだと考えていたのです。
また、松下幸之助の成功の根底には、徹底した楽観主義がありました。彼は、江戸で水を売る若者の逸話を引き合いに出し、「江戸では水を売って商売になる」「悲観的に見れば絶望へ通じるが、楽観的に見るなら心が躍動し知恵がわいてくる」と語っています。この「物事を積極的に明るく見る」姿勢もまた、数々の逆境を乗り越えてきた尊徳の生き様から学んだものでした。
尊徳の教えは、松下幸之助という稀代の経営者を通じて、現代のビジネスシーンに脈々と受け継がれています。その根幹にあるのは、顧客を喜び、社会に貢献し、その結果として自らも適正な利益を得るという、シンプルでありながらも力強い、共存共栄の商道なのです。
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