No.21【二宮尊徳のリーダーシップ】「民風作興は率先垂範から」に学ぶ、背中で語る変革
組織の文化や風土を変革する際、最も強力な武器は、リーダーの言葉ではなく、その「行動」です。二宮尊徳は、荒廃しきった桜町領(現・栃木県真岡市内)の再建において、まさにその「率先垂範」を徹底することで、人々の心を動かし、奇跡的な復興を成し遂げました。
尊徳が桜町領に赴任した当初、村は「怠惰の極み、汚俗の極み」という絶望的な状況でした。彼は、そのような人々に対して言葉で教え諭すことの無力さを知っていました。そこで彼が取った行動は、ただ一つ、自ら行動で示すことでした。
「深夜とか、あるいは未明に、村里を巡回することにした。怠け者を叱るのではない、朝寝を戒めるものでもない。(中略)ただ自分の勤めとして巡回を続けて、寒くとも暑くとも、雨風のときでも休まなかった」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)
これは、現代のリーダーシップ論における「背中で語る」ことの究極の実践です。メンバーに変化を求める前に、まずリーダー自らが、誰よりも愚直に、そして継続的にあるべき姿を行動で示す。その沈黙の行動が、やがて人々の心に「うかうかしておれぬぞ」という自発的な変化の火を灯したのです。
さらに尊徳は、リーダーが持つべき絶対条件として「清廉潔白」を挙げます。赴任当時、賄賂が横行していましたが、以下のように述べています。
「私がちりほども受け取らなかったから、善悪・正邪がはっきりして信義誠実の者がはじめて表に出るようになった」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)
リーダーの清廉な姿勢こそが、組織全体の倫理観の礎となり、正直者が報われる公正な文化を育むのです。
『報徳記』(富田高慶著より)によれば、桜町に着任した尊徳の生活は壮絶を極め、自らも粗末な衣食に甘んじ、「寝ること四時間であった」といいます。これは、「誰よりもハードワークをこなす」という、リーダーとしての覚悟と責任感の表れです。しかし、彼はただ闇雲に働くだけでなく、崩壊したコミュニティを再構築するために「芋こじ」と名付けたユニークな対話の場を設けました。これは、メンバー同士の対話を通じて、組織内の不満やいさかいを洗い流し、共同体としての結束を固めるという画期的な手法でした。
尊徳のリーダーシップは、自らが模範を示す「率先垂範」、私利私欲を捨てる「清廉潔白」、誰よりも努力する「自己規律」、そして組織の結束を高める「対話の場」の創設という四つの要素から成り立っていました。彼の教えは、真のリーダーシップとは、権力や言葉で人を動かすことではなく、自らの行動と姿勢によって、人々の心に火を灯し、組織を内側から変えていくプロセスそのものであるという、時代を超えた普遍的な真理を私たちに示しています。
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