No.7 【二宮尊徳の経営哲学】 「天道は自然、人道は作為」に学ぶ、事業と経営の原理原則
二宮尊徳の思想の根底には、「天道(市場環境)」と「人道(経営努力)」を区別し、そのバランスをとるという壮大な世界観があります。これは、現代経営の原理原則を見事に解き明かす普遍的な哲学です。
尊徳は以下のように、この二つの道を明確に定義します。
「天道は自然に行われる道で、人道は人の立てるところの道だ。(中略)天道に任せておけば、堤は崩れ(中略)家は立ち腐れとなる。人道はこれに反して、堤を築き(中略)屋根をふいて雨のもらぬようにするのだ。(中略)天道は寝たければ寝(中略)という類だ。人道は眠たいのを努めて働き(中略)明日のために物を蓄える、これが人道なのだ」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)
これは、企業経営における「市場環境(天道)」と「経営努力(人道)」の関係そのものです。市場の変化や景気の波にただ身を任せていれば、企業は自然と衰退します。一方で、市場の変化に抗い、未来に備える「人道」こそが経営者の務めであると尊徳は説きます。
さらに尊徳は、「人道」の本質を「作為」、すなわち「作ること」と「譲ること」にあると定義しました。
「人道は自然でなく作為のものだからして(中略)人道は、作ることに勤めるのを善とし、作ったものを破るのを悪とするのだ。(中略)自然に任せれば、皆廃れる。これを廃れぬように勤めるのが人道だ。(中略)人たるものは(中略)今年のものを来年に譲り、子孫に譲り、他人に譲るという道をよく心得て、よく実行しさえすれば、必ず成功すること疑いない」(『二宮翁夜話』福住正兄著より)
ビジネスとは、まさに「価値を創造(作る)し、顧客や社会に提供(譲る)」営みです。人間が主体的に働きかけ、価値を生み出すことこそが「人道」であり、ビジネスの本質です。そして、生み出した価値を未来や他者のために「譲る(投資・貢献)」ことで、社会は発展し、自らも成功を収めることができるのです。
尊徳の思想の卓越性は、この二つの道のバランスを重視した点にあります。従来の思想が「人道は天道に従うべき」としたのに対し、尊徳は、自然の摂理など「従うべき天道」には従い、自然災害や市場の脅威といった「退けるべき天道」には「人道」の努力で主体的に立ち向かうべきだとしました。
これは、市場のトレンドを的確に読み解きつつ、競合の脅威などには積極的な経営努力で立ち向かうという、現代の経営戦略論そのものです。尊徳の「天道人道論」は、自然や市場への深い洞察と、人間の主体的な努力への信頼に基づいた、時代を超えた普遍的な経営哲学なのです。
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