No.5【二宮尊徳のカイゼン術】 「飯を炊くのは少しずつ」に学ぶ、リーンな仕事の進め方
二宮尊徳の教えには、現代の「リーン思考」や「業務改善(カイゼン)」の原型とも言える、合理的で実践的な知恵が詰まっています。
尊徳は以下のように、日々の資源の使い方についてこう説きました。
「飯を炊くのは少しずつがよく、一度に沢山炊くのはよくない。(中略)薪を燃すのも、少しずつ出してくるのはよく、沢山持ち出すのはよくない。(中略)米倉に米があり、物置に薪がありさえすれば心配はない。これが家を富ます道である。そして、国を富ます道もこの道理に過ぎないのだ」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
これは「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」というジャストインタイム(JIT)の考え方そのものです。在庫を最小限に抑え、無駄な消費をなくすという、コスト管理の基本を示しています。 さらに、購買行動についてはこう述べます。
「(新しい着物を作るには)たとい金があっても、十日先に延ばすがよい。(中略)仕立てることを又十日だけ延ばすがよい。(中略)着るのを又々十日延ばすがよい。(中略)およそ気のくばり方をこのようにしていけば、家道の繁昌は改めて言うまでもない」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
これは、支払いを可能な限り遅らせて手元の現金を厚く保つ「キャッシュフロー経営」の要諦であり、衝動的な消費を戒め、計画性を持つことの重要性を示唆しています。
尊徳の思想が最も輝くのは、ある台所女中との逸話です。彼は借金を申し込んできた女中に、単に金を貸すのではなく、薪を節約する方法を具体的に指導しました。
現状分析:鍋釜の煤が熱効率を悪くしている問題点を発見。
プロセス改善:薪の並べ方を工夫し、エネルギー効率を最大化。
新たな価値創出:燃え残った「消し炭」を別の調理に活用し、廃棄物を資源に変える。
この一連の指導は、まさに現代の業務改善(カイゼン)活動です。尊徳が説く「倹約」とは、単なる我慢ではありませんでした。それは「知恵を働かせ、そのモノの備える本質を最高に発揮させる」、すなわち「モノの徳を生かす」という、極めて創造的な思想だったのです。
これは、あらゆるビジネスパーソンにとって重要な教訓です。今あるリソース(時間、人材、予算)を漫然と使うのではなく、その「徳」を最大限に生かす工夫はできないか。尊徳の教えは、日々の仕事の中にこそ、無限の改善のヒントが眠っていることを教えてくれます。
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