No.4 【二宮尊徳の経営戦略】 すべての再生は「分度」を立てることから始まる
二宮尊徳の改革手法「報徳仕法」において、あらゆる施策の根幹をなすのが「分度」という考え方です。これは単なる節約とは一線を画す、持続可能な経営と成長のための戦略的な概念です。
尊徳は以下のように、「分度」の本質を定義しています。
「天下には天下の分限があり(中略)天分によって支出の度を定めるのを分度という。(中略)分度を守らない限り、大きな国を領有してもやはり不足を生じる(中略)。なぜならば、天分には限りがあるが、贅沢には限りがないからである。いったい、分度と国家の関係は、家屋と土台石との関係のようなものだ」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
これは現代経営における「予算策定」と「規律」の重要性そのものです。企業の収入や体力(天分)を正確に把握し、それに見合った支出計画(分度)を立てなければ、どんな大企業でも経営は立ち行かなくなります。「収入には限りがあるが、欲望には限りがない」という指摘は、無計画な事業拡大への痛烈な警鐘です。
さらに尊徳は、その策定方法について、短期的な好不況に惑わされない高度なリスクマネジメントの手法を語ります。
「分度を立てるとはどういうことかというと、(中略)盛衰・貧富・豊凶を平均すれば中正で自然の数を得る。その中正で自然の数にもとづいて国や家の分度を立てるのだ。これこそ土台石とも言うべきものであって、これを守れば国も家も衰退や窮乏の恐れはない」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
好景気の売上だけを見て過大な投資をするのではなく、過去数年間の平均実績から持続可能な予算を導き出す。この堅実な「土台石」があってこそ、組織は安定した成長を遂げることができるのです。
尊徳はこの「分度」を、桜町領の再建で見事に実践しました。徹底したデータ分析に基づき、領主の生活レベルを実収に合わせたものに設定。さらに、将来収穫が増えても年貢の上限を定め、超過分は農民の利益とする未来永劫の「分度」を設定させました。
これは単なるコストカットではありません。現状分析に基づく現実的な目標設定、将来の利益配分のルール化、そして現場(農民)のモチベーション向上を同時に実現する高度な経営戦略でした。この実現可能な計画があったからこそ、藩も尊徳に全面的な協力を約束したのです。
尊徳の教えは、全ての改革が、まず現状を正確に把握し、持続可能な「分度(予算と規律)」を定めることから始まるという、経営の不変の原則を私たちに教えてくれます。
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