No.3【二宮尊徳の金融論】 「無利息貸付」に学ぶ持続可能なビジネスモデル
二宮尊徳が創設した金融システムは、単なる資金貸付ではなく、人と社会を再生させる画期的な仕組みであり、その根底には現代にも通じる普遍的な知恵が流れています。
まず、尊徳は無利息貸付が貸し手と借り手の双方に利益をもたらす「Win-Win」の仕組みであると説いています。
「貧しい人は金持の金を借りて(中略)元金が返せないのをいつも苦にしている。金持は金を貧しい人に貸して(中略)元金がもどらないのをいつも心配している。わが無利息貸付金は、その双方の心配や苦労を取り除くものだ。(中略)これこそ、貧富ともども憂いをまぬがれて利益を得る道ではないか」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
これは、どちらか一方が得をする「ゼロサム」ではなく、関係者全員が利益を得る「プラスサム」の関係構築です。ビジネスにおいて、全てのステークホルダーに利益のある仕組みを設計することの重要性を示唆しています。
さらに尊徳は、「報徳金」という仕組みの中で、事業フェーズに応じた2種類の貸付を構想していました。
「報徳金の無利息貸付に二つの方法がある。一つは、元金百両を年々歳々くり返し貸し付けるだけのもので(中略)現金は増えも減りもしない。(中略)もう一つは、(中略)報徳金が倍増してゆくのである。(中略)太陽が万古一日も照らさぬことがないように、くり返し貸し付けてやまなければ、(中略)必ず復興の功を奏し、報徳金を産み出すこと疑いない」(『二宮先生語録』斎藤高行著より)
これは現代企業の投資戦略そのものです。前者は、すぐには利益が出なくとも社会基盤を豊かにする「インフラ投資」。後者は、事業が生んだ利益を再投資してさらに成長させる「成長投資」と言えます。尊徳は、この両輪が社会を発展させていく様を描いていたのです。
そして、この金融システムの真骨頂は、その担保にありました。高利の借金に苦しむ人々を救う「五常講貸金」では、土地や財産といった「モノ」ではなく、仁・義・礼・智・信という「人の心」を担保としました。信頼できる人間性にこそ、最高の価値があるとしたのです。
これは「信頼資本」という無形資産の重要性を説いています。現代ビジネスでも、個人の信用や企業のブランド価値といった「信頼」が事業の成否を分けることを、尊徳は本質的に理解していました。
この思想はノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのグラミン銀行創設者であるムハマド・ユヌス氏の「マイクロクレジット」にも通じます。尊徳の仕組みは、単なる金融システムではなく、人の可能性を信じ、それを引き出すことで社会課題を解決する「ソーシャルビジネス」の先駆けであったと言えるでしょう。
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